ベルビルの市民センターで、あるフランス人女性が民族学で学んだ「あやとり」を教えていると聞き、ある土曜の午後、所定の住所に向かった。高層アパート群が立ち並び、その一つの建物一階の一室のガラス窓から集まっている人が見えたので恐る恐る入ってみた。子どもの姿はなく、なんだか住民の寄り合いみたいな雰囲気だ。
6割は中年以上で男性は3割くらい。メンバーの女性に誘われてきたのだろう、二人の若い日本人男女もいた。代表者らしき男性がわたしたち新来者に、会の主旨を簡単に説明してくれた。「ここはReseau d’echange de savoirです。もしあなたがシャンソンを習いたかったら、誰かから教えてもらい、かわりにあなたが折り紙とか、なんでもできるものをその人か誰かに教えればいいのです」
以前、オヴニーにSELという、住民の間でクーポンをお札代わりにものや知識、作業を交換するシステムの特集があったのを思い出した。
人びとが自己紹介をし、自分が必要としていることと提供できることを話すことになった。こういう会だったとは知らなかったわたしは「さてどうしよう、このサークルに入っていいものか…」、心の準備ができていなかったのだ。わたしの番になった時、あまり考えもせず「まあ、日常的な日本料理なら教えられます。かわりにピアノが自己流なので技術面を教えてくれる人がいましたら…」と小声で言ってしまった。
活発なノウハウの交換・交流の中で、わたしが抱いていた都会に住む中高年層の孤独なイメージは吹っ飛んでしまったのである。
パリ在住の定年した方など、言葉も使わずに日本文化の何かを教えられるのでは? かわりにフランス料理や会話を習ったり…日常の輪も広がりそう。(香)