十数年ぶりに暮れと正月を日本で過ごしました。小田原から仕事で東京に出かけることも多く、新幹線の終電車で帰宅した時に、以前はほとんど埋まっていた座席も、暮れだというのに点々と空いているのには驚いてしまった。会社帰りに一杯飲んだ酔っ払い風の人もあまり見かけない。マンガや雑誌を読む人も少ない。携帯でメールをしている人、寝ている人、ほんのわずかだが新聞を読む人というのが印象に残っている。こんなところから見ても景気の悪さが感じとれた。
テレビを見ていてもちょっとつらいものがあった。質屋が込み合っているという。質に預けに来るのは、お金に困っている人ではなく、暮れに銀行のキャッシングが使えないのでブランド品をお金に換えるという若者だ。年末に遊ぶお金のだめだという。新品のブランド品を持って来る人の中には、新作を買うためという人もいた。人気ある未使用の商品は、買った値より2万円ほど安く引き取ってくれる。この感覚が全く理解できなかった私は、友人に聞いてみた。驚くことに、高いものを買ってリッチな気分を味わうということらしい。品物に対しての価値観が変わったのである。何かが変である。
養老孟司さんの書いた『バカの壁』という本がベストセラーになっているというので買ってみた。「『話せばわかる』なんて大うそ! 知りたくないことに耳を貸さない人間に話が通じないということは、日常ではよく目にすることです。これをそのまま広げていった先に、戦争、テロ、民族・宗教間の紛争があります…」という帯の文章を読んだ時、かなりのショックを受けた。何が起こっているのだろう、と思った。
NHKの「ゆく年くる年」の後の番組は、養老さんと犬養道子さんの戦争を中心とした対談だった。今年もスタートから景気の良くない日本になりそうな感じであった。(M・S)