年輪を刻んだ “おばあちゃん” の顔や姿や立ち居振る舞いには物語がある。見ているだけで、愛らしく微笑ましく感動的だ。『Baboussia』は、ソ連からロシアへの歴史を生きてきたごく普通の庶民バブーシャが主人公。世界的に失われつつある “おばあちゃん” の典型だ。
長距離列車の乗務員で不在がちだった娘夫婦に代わって孫を育てた。その孫たちは、兵士としてアフガニスタンで戦死したり、チェチェンのテロの犠牲になって失語症になった子(バブーシャにとっては曾孫)を抱えていたり、”新生ロシア人” としてバブリーな生活を謳歌していたりと、現代ロシアの縮図を見るようだ。バブーシャの一生は、子孫を育て、年金を彼らのために融資し、エゴを持たずに身を粉にして家族に捧げたものだった。ずっと同居してきた娘が入院することになり、婿はバブーシャを田舎に住む彼女の妹の所へ厄介払いする。
この妹アンナとバブーシャの姉妹は、まるで “金さん銀さん ” みたいな絶妙なコンビだが、長続きはしない。妹も年で骨折して入院することになってしまう。同居している息子のヴィクトールはアル中で役立たず、その姉のリザはモスクワのTV局で働く花形キャスターと、これまたロシアの現状を象徴する姉弟だ。リザが帰郷し、今後の仕切りに乗り出すが…。
監督のリディヤ・ボブロヴァは、すでに『Dans ce pays-laこの国で』(97)でアルコール漬けのロシアの田舎の生活を絶望的な笑いの中に描写し、評価を得ている。『Baboussia』も現代ロシア社会を凝視する作品だが、バブーシャというナイスなキャラを中心に置いたことで詩的な作品に昇華させることに成功している。エゴがないおばあちゃんはタライ回しにされるがまま、そんな彼女の目に涙が光る時、こちらもホロッ…。(吉)