夏休みの終わりに公開された『Etre et avoir ぼくの好きな先生』、もうご覧になった方もいると思いますが、まだって方には是非とも観に行って頂きたい逸品です。日本でも『音のない世界で』や『すべての些細な事柄』が公開されているので、監督、ニコラ・フィリベールのドキュメンタリー作家としての眼差し、対象へのアプローチの仕方を承知の方もいるでしょう。
『Etre et avoir』はオーベルニュ地方の寒村にある小さな小さな小学校にカメラを持ち込んで、一人の先生と13人の生徒の日常を撮っていく。それだけのことで色んなことが浮かび上がってくる。もちろん、無邪気な子供たちの成長、そして教育の仕事、自然環境や家庭環境…。それは広い世界の何処ででも営まれている “ありきたりなこと” かもしれない。でも尊いことなのだ。大変な社会問題に迫るわけでなく、突拍子もない現実を追求するわけでもなく、人間の基本的なことに興味を向ける。これがニコラ・フィリベールの姿勢。それで映画が成り立ってしまう。しかも面白い。おまけにヒットしてしまう。凄いことだ。
デジタル・ ビデオ・カメラという優れ物が登場して、気軽に誰でもその気になれば映像が撮れる時代になった。これは、映画・映像の世界にとって革命的なことなのだ。でも、フィリベールはこの映画を35mmフィルムで撮っている。お金も時間も浪費できない制約の中で撮っている。入念な準備と緊張感の持続が必要だ。真剣勝負。この意気込みも『Etre et avoir』に品格を与えている要素だろう。
それにしてもジョジョ君は可愛いし、ロペス先生はキマッてるし、対象が魅力的じゃなきゃドキュメンタリーは始まらない! それと選んだ対象への愛。(吉)