ゲイであることをひた隠しにする勝裕と、家庭を築くことなど諦めている直也。そんな彼らの前に「結婚とか、付き合うとかではなく、子供がほしい」と申し出る朝子。ゲイ男性2人×孤独な女性の奇妙な遭遇は、それぞれがあやふやにしてきた何かを清算し、前に歩み出すきっかけに。果たして彼らは「家族」にも似た新しい共同体を構築できるのか? 固定観念で動脈硬化気味の人生に効果アリの、鋭く、可笑しく、そして優しい、橋口亮輔監督5年ぶりの新作。
−両親が離婚したこともあり、自主映画時代から「家族」をきちんと撮ってみたかった。前作『渚のシンドバット』で浜崎あゆみを使った時「なんて凄い子だ」と思い、次は彼女主演で、ゲイのカップルに育てられた子供を描こうと思った。でもそのうち「なぜそもそもゲイのカップルが子供を持ちたいと思うのか?」と考えて始めて…。人間の孤独を見つめることにもなるこのテーマは、監督の勘で面白い映画になると思った。 −ゲイの男性が子育てを「新しい一歩を踏み出すチャンス」と捉えていたのが印象的だった。僕はゲイだから自分の人生に家族や子供はないものと思っていたけど、そうか、たかだか30歳やそこらで人生の完成型を決めてしまうのはつまらないなと。例えば、これからも僕は映画監督を続けていくと思うけど、明日はパン屋さんになる可能性だってあるはず。選択はしなくても可能性は残す。そんな人生に対する余裕を学んだ気がした。 −主役の三人、田辺(誠一)、高橋(和也)、片岡(礼子)は30代。役者としてだけでなく人生を今後どうするか、みな真剣に考えていた。片岡は「人生を賭け家族を捨てて取り組む」って言うから「おいおい家族まで捨てなくても」って(笑)。 家族まで捨てかけた片岡礼子は、キネマ旬報主演女優賞を受賞。日本ではすでに最大級の賛辞を欲しいままにした本作。フランスでは7月3日よりUGC系列で、邦画では異例の大規模な公開が決定した。(瑞) ●Hush! |
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●Appartement# 5C ニューヨークに住むフランス人監督ラファエル・ナジャリの長編第3作目では、イスラエル人の若い娘と、彼女が不法占拠している建物の中年管理人との淡い恋が描かれる。ナジャリ監督は処女作の The Shadeから、ドキュメンタリーとフィクションの中間のような、暗い目の粗い映像で作品を作ってきた。今回もその例にもれず、室内は陰気で味気なく、ニューヨークの街も空も灰色で、未来も希望もないように映し出される。 ナジャリの処女長編から常連で今回は管理人役を演じるリチャード・エドソンもイスラエル人女優ティンカーベルもとてもいいのだけれど、(特に管理人の)あいまいな人物像に惹かれる間もなく、これからだ、という時に話が終わっていた。カンヌでは好評だったらしいが、ナジャリの才能を買う私にとっては少し物足りなかった。(海) |
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