9・11事件は、衝撃的な映像が繰り返し流され、様々な専門家や知識人の分析と解説が反復されるだけで、公開される情報や細部の情報は少なく、単一的という、現代の情報化社会においては特異なケースである。そうした中、9・11事件から半年たった3月11日に出版された本書は逆に、その事件を取り巻く一連の出来事について多様多彩な情報を総括するだけでなく、あらゆる種類の公式発表や公文書、政府高官の発言の細部に焦点をあて、矛盾点やおかしな点を挙げながら、一連の出来事の流れと背景を分析する。 この分析は、副題が「ペンタゴンには飛行機は落ちていない」とあるように、「ビンラディンによるアメリカに対するテロ−アメリカの報復」という一般的理解に異を唱え、9・11事件は米国家機関内部によって引き起こされたものであり、アフガニスタン進出の口実として計画され、それはエネルギー資源獲得と軍事産業拡大などを目的とするという説の証明につながる。 9・11事件だけでなく関連する一連の出来事と背景など、米国家の軍事や国家保安などのシステムの理解という視野から見れば、本書はケネディ暗殺や、ゾーン51、エシュロンなどに関するノンフィクション、さらには、オリヴァー・ストーンの『JFK』や『Xファイル』のようなフィクションと同類といってもよいだろう。すなわち、本書で提示されている解釈やアメリカの内部陰謀説がどこまで「真実」に近いかは、各読者の主観はもちろん、今後どこまで情報が公開されるのかによる。しかし、導入部にあるように、本書は「読者を絶対的真実に導くのではなく」、「読者に懐疑的態度を促し」ていることは明記しておくに値する。 本書は出版されてから一週間の間にフランスのマスメディアで大きく取り上げられ、内容の批判はもちろん、その出版自体がスキャンダラスであると、大きな反響を呼んだ。それでも一週間で8万部が売れ、フナックやインターネット書店アマゾンなどでは一時売り切れたところもあった。その「センセーショナル」な内容はともかく、本書が現代の情報化社会の産物であることは確かだ。 この現代性は、表面的には、9・11事件それ自体とその情報、そして情報の扱われ方に顕れているのはもちろん、引用されている資料の出典がサイトアドレスで記されていて、読者も簡単に確認できることなど、インターネットという情報媒体を大いに活用していることにも見られる。さらに広い視野で見れば、本書は、情報が映像やインターネットなども含めて様々な媒体を介して氾濫・錯乱し、操作されもしているメディア/コミュニケーションの現代的状況を反映している。 そうした意味では、政治思想や理念についての討論が少なく、人物のイメージが大きな役割を果たす現在の大統領選挙戦、さらには、J-J.ベネックスがいうように「テレビがその独自の論理の極点に達した」とされ、4月11日(9・11事件からちょうど7カ月後!)から第二弾が始まった『Loft Story』にも通じるだろう。(樫) |
photo : DoD, Tech. Sgt. Cedric H. Rudisill
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