●Porto de mon enfance 冒頭でピントが合わずぼやけたままの廃屋が登場し、この家で自分は生まれた、としゃがれ声の説明が入る。93歳でますます健在なポルトガル人監督マノエル・ド・オリヴェイラが、自分が生まれ育ったポルトーの「昔」を、懐かしさをこめて振り返る。マノエル少年は、両親に連れられてオペレッタを観に行き、娼婦たちが紳士に連れられてやってくる高級菓子店とそれに同居するダンスホール、ご婦人たちが夕食後にそぞろ歩きを楽しむ森の小道などを観察し、素手で大聖堂に登る男の姿に息を呑む。 これはポルトーという街に捧げる賛歌だといっていい。ただ、「昔は良かった」と今を嘆くのではなく、自分の幼少期の思い出がいかにこの街につながっているかをオリヴェイラは色鮮やかに再現する。時は移り、人は変わっても海だけはいつもそこにある、といいたげな最後のカットが印象的。(海) |
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●Le doux amour des hommes 若い詩人ラウールは、運命的な出会いをしたい、と常日ごろ思っている。カフェやバーで、パリの街中で、そして小さな自分のアパートで、ラウールは色々な女の子と会話やセックスを分かち合う。そのラウールの目の前に、ようやく運命の女性が現れる。ところが、彼女は知り合ってまもなく死んでしまう。ラウールの満たされない心は一体どこへ行くのか?ラウールや彼の友人の言動からは、60、70年代の映画作品(ユスターシュ、ロメール、リヴェット…)に登場する若者たちの姿が浮かび上がる。文学論や人生論に花を咲かせる「少し古風な」ラウールと友人たちや、自分を見失い途方にくれるラウールの姿を、「今風な」カメラワークのデジタルカメラが追う。おかげで作品は自由で新鮮な空気に包まれているが、悩める詩人ラウールの人物にもう少し深みが欲しかった、と思う。監督はジャン=ポール・シヴェラック。(海) |
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●オタール・イオセ リアーニ特集 ボリス・バルネット、ジャン・ヴィゴ、ジャック・タチの世界が好きな人はきっと心惹かれる。2月6日より3月3日までパリシネマテークでグルジア出身、オタール・イオセリアーニ監督のレトロスペクティブが開催。詩的で洒脱、慎ましいのに過激。かつて数学と音楽を学んだ彼の作品はどこか現代音楽に似た響き。 多忙なティンパニー奏者の数日間『Il etait une fois un merle chanteur 歌うつぐみがおりました』、古い一枚の裸体画の運命をたどる『Les favoris de la lune 月の寵児たち』、グルジア系ブルジョワ家族と愛すべきその他大勢を描く『Adieu, plancher des vaches! さらば、わが家』など全17作品。匿名の人々と時間軸を自在に交錯させる “幸福なるペシミスト”、イオセリアーニ的宇宙に存分に浸りたい。なお2月20日には新作 『Lundi matin』も公開。(瑞) |