映画の魅力って多面的だ。作品としての完成度だけが評価基準ではない。全体としては凡庸な作品でも、1カットでもハッとさせる輝きがあれば、認めてしまいたくなる。『Downtown 81』の場合は、散文的で、とりとめもない映画だけど、そこにジャン=ミシェル・バスキアがいるというだけで、もう素敵だ。今でこそ20世紀を代表するアーチストの一人として評価されている彼も、当時はいっかいのストリート・アーチスト。自分で自分の役 (とってもチャーミング!) を演じている。朝から次の日の朝まで、彼の一日を追っかける。その中に、80年代初頭のNYダウンタウンのカルチャー・シーン(ニュー・ウェーヴ、ニュー・ペインティング、ヒップ・ホップ、グラフィティー、等)が浮き上がってくる。
病院のベッドの上、医者から退院許可をもらって外に出た途端、美女と出くわす。こいつは朝から縁起がいい。が、彼女と再会を約束して家に帰ると、家賃滞納で追い出されるはめに。こうして1枚の絵と紙袋を提げてバスキアの放浪の一日が始まる。様々な人たちとの交流、出会い、壁に落書きをし、音楽を奏で、絵は売れたが小切手で支払われたので、寝ぐらがない。夜は、朝の彼女の影を追いかけながらクラブのはしご (ここで豪華絢爛なライヴに遭遇できる) …。
“芸術家の生活” を俳優が演じて再現した伝記もの (そこには監督の視点が介在している) などを遙かに凌駕し、ヴィヴィッドに “芸術家の生活” を感じることができるのは、これがドキュメンタリーに近い性格の作品だからだろうか。
ポストプロダクションの金がないまま放置されていた素材を、当時のスタッフが昨年やっと完成させた。28歳で夭折したバスキア、19歳の日と当時のNYの空気が満喫できる。(吉)