●Une nuit avec Sabina Love 田舎育ちの青年が、セクシーなTV深夜番組の司会をするサブリナ・ラヴが募集した視聴者コンテストで一等に輝く。サブリナと一晩を過ごすという褒美を目当てに、ブエノスアイレスまで出てきたその青年の数日間が描かれる。田舎を飛び出したきり両親の死も知らずに首都でヒモの生活をする兄、兄を愛する女流写真家、ヒッチハイクの途中で知り合った年配の売れない作家、ディスコでインタビューをしてきた美人テレビリポーター、そして憧れのサブリナ・ラヴ…。彼らとの出会いとふれあいが、田舎育ちで世間知らずだった主人公を大人にしていく。 話は平凡かもしれないが、アルモドヴァールの『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロス演じるサブリナ・ラヴと主人公(美しい青年トーマス・フォンジ)の純真さが救いだ。監督はアレッハンドロ・アグレスティ。(海) |
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●De l’histoire ancienne 青年ギーは、レジスタンス運動の数少ない生き残りだった父親を亡くしたばかりで、準備中の論文に父親の証言を使いたがっていた親友にその死を告げられずにいる。絶望や悲しみのあまり病に倒れる母親や、葬式や墓など現実的な問題に奔走する姉と兄を尻目に、父親の過去に興味を持ち、「昔の話」を見直し始めるギーは、父親の亡霊に取り憑かれたかのように正気を失っていく。 ギーが受け取った遺産は重い「歴史の一頁」だった。語り継ぐ必要はあっても過去の亡霊になる必要はない。ところがギーは、自分の人生を忘れ、父親の「過去」と自分の「今」をだんだん重ねていく…ギーが言葉少なく壊れていく様子を、初の長編作とは思えないほど静かで落ち着いた調子でオルソ・ミレが描く。(海) |
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●La faute a Voltaire K・ドリディ監督の “Bye Bye” で、内気でどこか影のある兄役を演じたサミ・ブアジラには、これまでのマグレブ系キャラクターにはなかった存在感があった。その彼が、アブデラティフ・ケシッシュの処女作 “La Faute Voltaire” では、アルジェリア人になりすまして一時滞在許可をもらい、ホームレス向けの寮に泊まりながら、地下鉄構内の果物売りなどで生計を立てようとするチュニジア人の若い男ジャレルを演ずる。映画作品では、マグレブの若者というとチンピラか被害者として描かれがちだが、この作品のジャレルはひたすら生きる。二人の女との出会い。自由なカメラの動きの中で、瞬間、瞬間に浮かび上がる感情が画面に息づき、僕らもハッと共感。セックスに無我夢中なリュシーを演じるエロディー・ブシェーがとてもいい。(真) |