現在6区のレストランでパティシエとして働いている川村有賀子さんは、短大卒業後、出身地の和歌山県で洋菓子店に就職しケーキ作りを学んだ。3年後、和菓子の勉強のために転職するが、やはり、やりたいのは洋菓子、と元の土俵に戻る。
菓子作りの世界は女性には甘くない。他の職場と同様、女性は採用をしぶられたり、大きなオーブンを使っている店では、力が必要との理由から男性が優先されたりするそうだ。長時間の立ち仕事は体力がないと勤まらない。
「ドイツやオーストリアのお菓子も美味しい。でも、フランスのケーキやデザートは繊細に装飾されている。その装飾用飴細工をやりたくてフランスに来たんです」。花や動物、その他の飾り物の飴細工を、ベテラン菓子職人や料理学校の先生たちと肩を並べてパリの学校で勉強した。
今のところ、飴細工で活躍する機会がなかなか訪れないが、デザートの考案も任される。「季節感を盛り込みたい」と冬のメニューにミルフイユ・オ・ショコラを加えた。「もっと新しいもの、手のかかったものにも挑戦したいけれど、レストランのサービスもあるからそれができなくて…」。2年前に来仏し、ディジョン、パリで仏語講座、菓子学校に通い、老舗LADUREEでの研修を経て、現在の職に。
「おいしいお菓子、と簡単に言うけれど、これが結構難しいんです。個人の好みの問題はもちろん、日本ではスポンジ・ケーキとホイップ・クリームの類、苺を添えたものが好まれるのに対し、フランスではタルト類、フランボワーズを使ったものが人気、というように、国による好みの違いもあるんです。今はフランスで仕事をしているので、フランスの人たちに美味しいと言ってもらえるものを作るのが目標です」。セット・メニューのデザートに軽い気持ちでクレープを提案したら注文が殺到、クレープだけ焼きっぱなしの日があった。「フランス人がこれほどクレープが好きだとは思わなかった」。もうすぐバレンタイン・デー。シェフから任されたバレンタイン特別デザートのアイデアが固まりつつある。(美)