ディジョン国立美術学校で催された、写真家村上佳子の作品展に出かけた。被写体は、光を失った人たち。全作品モノクロームである。顔や身体全体、手の表情をカメラが捉えていく。
倒木の、太い幹のいく筋もの溝をなぞっていく手。その手のひらの匂いをかぐ瞬間。顔をちょっとかしげ耳をすませるようにして、枝の先の葉をそおっと両手に取る人。葉脈を確かめているのだろうか。なめらかな彫像の手の甲に重ねおかれた手。無機質の指と指の間を肉感のある指がたどっていく。見る者の「触る」という感覚を刺激する作品群である。
目の不自由な人々のグループの遠出に参加し、彼らがどのように自然と対話するかを見、感動の瞬間に立ち会ってきた目が捉えた一枚一枚である。被写体となった人々には見せられないという写真の限界を感じた作者は、それぞれの作品の表面に点字を刻む。写真を「見る」者にはメッセージがわからない、という魅力に満ちた仕かけだ。
会場の紹介文によると、すでに職業カメラマンとして活躍した日本を後に九一年に来仏、アルルやパリENSAD(国立装飾芸術学校)で研鑽を積み、盲人と、”sans papiers”(身分証明書を持たぬ人々)をテーマに扱った作品は、優秀な卒業作品に贈られる賞に輝いた。もうひとつのテーマ”sans papiers”「不法滞在」の人々には、どのように心を寄りそわせているのだろうか? さらに発表の場が広がることが期待される。なお、写真集”Les mains pour voir 見るための手”が Actes du sud 社より出版されている。(ディジョン在、粒々芥子)