● Eyes wide shut 日本公開から2ヶ月近く遅れてフランスでも先月15日から公開されているキューブリックの最終作。これまで「衝撃的な」映画を撮っていた彼は、やはり「衝撃的な」シネアストであった。衝撃的なのはクルーズとキッドマンの共演でも、この映画で切り刻まれていく夫婦生活でもない。絶演のニコール・キッドマンの官能さ、ミスティックな城の中の饗宴の不可思議さでもない。この作品は、我々自身の中にある「悪」をえぐり出しているのだ。この悪とは、男女の間のそれ、男が女に対して、女が男に対して持つそれである。淡々とした映画的語りによって、いかに完全な人間的愛の中にも、その「悪」があることをこの映画は感じさせており、それが衝撃なのだ。人間愛の中にあるこの「悪」の本質とは? いかにそれから〈生き延びる/共存する〉ことができるか? 答えはこの映画の衝撃の中にある。(岳) ● Voyages 三つの旅。リウカは、テルアビブからアウシュビッツへ長いバスの旅。強制収容所で両親と姉が虐殺されている。強制収容所で亡くなったと思われていた老父は、リトアニアからパリに住む娘レジーヌのところへ。父の記憶はおぼろでレジーヌの懐疑は深まるばかり。85歳のヴェラは、モスクワからテルアビブへと旅し、イスラエル人に帰化する。イディッシュ語を誰も話さなくなった大都市の雑踏の中を危うい足取りでさまよう。 長い歴史が刻まれた顔、顔…そのまわりに漂う時間が急に弛緩し 、中庭のざわめき、父のかすかなイビキ、外の雨といったオフの音が入り込み、その瞬間、彼らの深い孤独に触れる。エマニュエル・フィンキエル監督の処女長編だ。(真) ● La Lettre 請われるまま年上の男の妻となったカトリーヌは、自分に思いを寄せる人気歌手を密かに愛するようになる。罪悪感にさいなまれたカトリーヌの衝撃的な告白は、夫を死に追いやる。歌手と結ばれることを拒み姿を消すカトリーヌは、旅先から幼なじみの修道女に一通の手紙を送る。 18世紀にラファイエット伯爵夫人が書いた小説『クレーヴの奥方』を、オリヴェイラがじっくりと映画化した。 話の舞台は現代のパリに移されているのに、登場人物たちは、時間からおきざりにされ、いつの時代とも判断しかねる「独特の空間」の中を静かに行き来する。 夫と自分の描く理想の愛との間を揺れ動く微妙な女の心情を、しっとりと美しくキアラ・マストロヤンニが演じている。(海) |