膨大な量のドキュメンタリーフィルムから発掘された映像が、40あまりのモニターから繰り返し流れる。今世紀、世界のどこかで起きた不幸と幸福は、整然と並ぶモニターを通してこの部屋の中で同時進行する。 リアルタイムで撮影される映像は、撮影時点では何が起こるのかはまったく予測不可能だ。目の前に広がるはっとするような瞬間。きっと撮影者も驚いたに違いない。撮影者と被写体の関係もまた鋭く浮き上がる。全身やけどで覆われた、裸で逃げるベトナムの少女。走る少女をレンズが追う。その先を何台ものカメラが待ち構える…。撮影者は結局傍観者でしかないのだろうか。 スローモーションや映像静止、あるいは色調調整などによってエッセンスが抽出された、あらゆる感情を含んだ瞬間。展覧会のタイトルにある”beaux” という言葉の意味が大転換する。だが感動を際立たせるために操作された「美しい」場面は、まるでビデオクリップか何かのようにも見え、少々反発を感じないでもない。確かに絵画や彫刻も、伝えようとするテーマのために対象を操作する。しかし、これらは実際に起きた出来事だ。複雑だった状況はきれいに整頓され、観ている方が持ちたいと思うイメージにねじ曲げられているようで、やりきれない気持ちになる。映像技術がそれ自身の方法を持つことに対しては、特に批判しようとは思わないが…。 今も世界中で起きているさまざまな出来事。 悲しみの真っただ中にいる人、喜びに満ちた人が同じ瞬間に存在する。 〈ある夏の日、冷房のきいた部屋でモニターから流れる悲惨な光景を眺めている自分〉というこの光景も世界と同じように残酷だ。(仙) *Maison Europeenne de la Photographie: 5-7 rue de Fourcy 4e 月火休 9/5日迄 |
バーレーン展 ペルシャ湾に浮かぶ33の島から成る小さな国、バーレーン。チグリス・ユーフラテス川河口と、ホルムス海峡の中間に位置し、古代から交易が盛んだった。今でも中継貿易や豊かな石油資源を経済の中心とし、発展が著しい。 この国には紀元前2400年から紀元前1700年頃に築かれた、テュミュリと呼ばれる大きな墳墓群がある。こんもりと土を盛ったような小山状の墓が、現存するだけでおよそ4万。近隣の大陸の人々に墓場としてのみ利用されていた、とかつては考えられていたが、1954年に島内で住居跡が発見され、古代から独自の文明を持っていたことが判明した。展覧会は、この国がディルムーンと呼ばれ繁栄した紀元前2000年頃から、マケドニアのアレキサンダー大王の遠征後、ギリシャ風にティロスと呼ばれるようになった時代 (紀元前300年~西暦600年) へと導いてくれる。各時代の墓が復元されていたり、死者に捧げた陶器、装身具、香水瓶、女性に捧げたという紡錘 (綿を紡ぐ道具)、商人が使った封印、真珠の売買に使った秤、泣き女の人形などの副葬品が展示されている。洗練された出土品を見ていると、古代の豊かな港町が目に浮かぶ。世界史のおさらいをしながら、空想旅行に出たようで、得した気分になった。(美) *Institut du Monde Arabe : 1 rue des Fosses Saint-Bernard 5e 8/29日迄 |
●Alberto GIACOMETT (1901 – 65) バカンスで南仏へ出かけるなら… |