戦犯容疑者ユーゴ大統領と和平交渉。

 NATO軍の約80日間の空爆でセルビア各地で橋や公共施設が破壊され、セルビア兵約5000人が戦死、民間でも300人以上死亡している。四面楚歌に追い込まれたミロシェビッチ大統領がついに 6月3日、和平案を受け入れ、セルビア議会も承諾した。
 和平案は、ユーゴ軍のコソボ州からの全面撤退、迫害行為の停止、平和維持部隊の駐留、同州の自治権の確立・暫定的統治機構の設置、避難民の帰還など。が、5 – 6日、ユーゴ軍の撤退期限や緩衝地帯での同連邦軍の規模などでもめ、NATO軍は空爆を続行。8日、G8外相会議は安保理へ提出する決議案をまとめ、ユーゴの同意を得てユーゴ軍撤退開始時に安保理で採決することを決定した
 しかし、和平案をめぐりチェルノムイルジン・ロシア特使がユーゴ側と交渉中だった5月27日、ハーグの国連戦争犯罪法廷(ICTY)のアーバー主任検察官は、ユーゴ大統領を始め、同連邦副首相と軍司令官、セルビア共和国大統領及び内相の5人を、1999年1月から4月までコソボでの民族浄化のためユーゴ軍・セルビア兵、民兵らを指示・命令・扇動し、アルバニア系住民(74万人)の追い出し、虐殺・暴行・拷問などの残虐行為、非人道行為を兵力にさせていた疑いで起訴し、国際逮捕状を出している。欧米ロシアが和平案の受諾をとりつけた相手は、ほかならぬコソボ紛争の戦犯、非人道罪の容疑者なのである。
 ICTYは1993年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の戦犯を裁くために設立されたが、
すでに起訴されているセルビア人勢力指導者カラジッチ氏やムラジッチ司令官はいまだに逮捕されておらず、欧米諸国は国際法廷の活動を軽視してきたよう。
 今回のICTYによる現職の国家元首・指導者らの起訴は初めてであるばかりか、「紛争解決の努力を挫折させるもの」とロシア側は厳しく批判した。が、シラク大統領は、ICTYの決定を「普遍的倫理の進歩」と称え、NATOによる空爆の正当性を裏付けるものとして重視する。
 10年来スロベニア、クロアチア、ボスニア、そしてコソボをも襲った民族浄化に対し、95年のデイトン協定ほか、紛争ごとに交された和平協定はいったい何だったのか。民族混住地域の分割案や国際保護軍の設置も、ミロシェビッチ大統領の民族浄化指向を抑止できなかったのである。
 クリントン米大統領も「民族浄化はナチスのユダヤ人虐殺に似ている」と述べているが、追放され家族と死別、離散したアルバニア系住民が廃虚と化した郷里に戻ったとしても、民族浄化の犠牲者の怒りと惨苦はいかにして癒されるのだろう。
 ICTYのアーバー検察官はこうした犠牲者の側に立ち、究極的には民族浄化に終止符を打つためにも、ユーゴ大統領らを戦犯、非人道罪の容疑者として是が非でも逮捕する必要があるのだろう。(君)


コソボ国際治安部隊の編成主要国
50000人 予定総数
13000人 イギリス
 7000人 アメリカ
 6000人 フランス
 6000人 ドイツ
 4000人 NATO非加盟諸国
*6月6日時点ではロシア兵の派遣数は未定。