「こういう格好をするのは人に見せるためじゃない、音楽を聴くときのムードを整えるため。洋服は頭のなかで何を考えているかで選ぶもの。黒はゴシック・ロックの色であると同時に僕等の精神状態を表す色なんだ。」時々、レピュブリック近くのコンサート会場「ジビュス」の前に全身黒の若者が50人以上もいるのを見かけるので聞いてみた。女性ふたりはこだわるあまり、ブロンドと栗毛色の髪を黒に染めている、と言っていた。一緒にいた青年「寝るとき以外はいつも黒。パジャマの色? 着ません」 ゴシック・ロックはパンク、ハードロック、コールドウェーブ等の音楽の残骸のなかから生まれた。ファッションは上記の流れよりもメイクに凝り、神秘的、魔術がかった感じになる。写真の三人、かなりゴシック。「テスピスの哀歌」という名のグループのメンバーです。パンクが社会への反抗を謳ったのに対して、ゴシックは現実を離れて中世の空想の世界に遊ぶ。様々な神話、シャーマニズム、錬金術、黒魔術、キリスト教から異端とされた多神教、秘教などが発想の源。これらの素材が彼らに料理されると陰な神秘の匂いが漂う。レコード・ジャケットもグループの名前、そして歌詞にも「死」に関する言葉や反キリスト教的な文句が目立つのも大きな特徴だ。 ゴシック・カルチャーはロックだけではなく映画、小説、絵画にまで及ぶ広範なもの。ロマン主義、黒ロマン主義、象徴主義、象徴超現実主義、ホラー、そして上述の中世の宗教的要素などが彼らの領域。ゴシック・ロックが生まれたのは70年代後半の音楽がホラー映画・小説の盛り上がりに触発されてのことだった。 80年頃、この傾向をいち早く見せたのが BAUHAUS、 CHRISTIAN DEATH、 NICK CAVE 等だったそうだ。舞台で豚を殺したりもするという VIRGIN PRUNES などは極端!と思うけれど、勧められて聞いてみた。子供の妖怪の声みたいな電子音の「異教徒のラブソング」、火を囲んでの怪しい儀式を思わせる曲もあるし、聴き慣れた感じのするニューウェーブ風の曲も多くて、聴けば即ゴシックな気分になるのではないということがわかった。 黒装束だと弊害もあるとか。「パリだとロンドンに比べて人々の目が冷たくて迫害されてるみたい」長髪青年「メトロの中で「あの長髪は男? いや女だろ」なんて意地悪いわれた。いかにもラップが好きそうなヤツらだった。」あ、ラップ対ゴシックの抗争か? 服、アクセサリーはシャトレとクリニャンクールの蚤の市にある GROUFT で調達。ゴシックのファンジン “LA PLUME DE MORTESSA” は清潔感、真面目さにあふれている。話を聞かせてくれた青年たちも、黒装束に白い歯が一層まぶしかった。 (美) |
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