想像のエクトメートル: KAWAMATA Tadashi N° 403 1997-10-15 空間に穿かれたパッサージュ フェスティバル・ドートンヌに招かれて、サン・ルイ・ド・ラ・サルペトリエール礼拝堂に仕掛けた今回の川俣正の構造体は、木造の巨大な伽藍のようである。教会の中で礼拝のときに座る椅子を数えきれぬほど積み重ね、円形の塔と通路のように仮設されている。 彼はフランスでは、87年のグルノーブル、93年のリヨン・ビエンナーレ、またトゥール地方やサシェのカルダーのアトリエですでに仕事を発表しているが、パリでは今回の規模のものは初めてである。 空間にかけるインスタレーションを川俣が手掛け始めたのは79年からで、櫓に板を張り付けた土木工事の現場のような構造体を住宅の内部や外に仮設している。実際、「工事中」と題されたインスタレーションも行なっている。この作家は東京芸大で絵画を専攻したが、初期のインスタレーションを見ると、空間に描いたドローイングのようにも見える。彼の絵画的なアプローチが、都市の住宅や教会、小路などに及ぶとき、それらは当然、建築的彫刻的なものへと変貌していくのである。 或る構造体が仮設され、一定の時間が経つと撤去されてしまう束の間性に基づいた仕事をする作家としてはクリストがすでに有名だが、川俣の作業の独自性は、構造体がいつも木を使用したもので、都市空間に常に挑んでいる点だ。木材はほとんどその現場で見つけられた素材である。ということは、そこに常に社会的な媒体としての都市空間がからむことになり、否応なくそこに中心と周縁、建設と崩壊という社会性を抱き込むことになる。今回の仕事も、巨大な礼拝堂の中にそれらのアナロジーを見るだろう。 彼の仕事は、空間の寄生物あるいはノイズというよりは、或る場に穿たれた異空間=通路のように機能していると思われるのである。 (kolin) *Chapelle de St-Louis de la Salepetriere (Metro : Campo Formio) 11月2日迄 (無料) Share on : Recommandé:おすすめ記事 【イベント】5 /18 ヨーロッパ 美術館の夜 – Nuit européen des musées 【美術展】ミリアム・カーン「連続する私の思考」展。 「マティス。カイエ・ダール、1930年代の転換期。」展 写真家アーウィン・ブルーメンフェルドにも苦難の時代があった。 ココシュカの、芸術家、人間としての成長を見せる展覧会。 フュースリー 夢と幻想の間で。