映画の撮影は通常数週間から数ヵ月で終わる。しかし稀に何年にもわたって同じ人物を撮り続ける作品がある。リチャード・リンクレイターの『6才のボクが、大人になるまで』、最近ならセバスチャン・リフシッツのドキュメンタリー『Adolescentes』など。日本のTVドラマ『北の国から』もその仲間と言える。
本作も人を軸とした定点観測作品。ワシントンDCに住むサンフォード家を追うドキュメンタリーで、撮影期間は20年と長い。1999年、のちに本作の監督となるデイビー・ロスバートは、近所に住む9歳のエマニュエルと彼の15歳の兄スマーフと意気投合。すぐに彼らの母や姉も交え、家族ぐるみの付き合いが始まる。
エマニュエルはカメラに興味を示し、ロスバートのカメラで自ら撮影もするようになる。家族の楽しい時間から険悪な時間までランダムに収めてゆく。やがてエマニュエルはバカロレアを取得、消防士を目指し研修に参加。彼女とも仲睦まじい。一方、スマーフはドラックの売買を止められない。そして出会いから10年が経つ頃、一家を悲劇が襲う。ここで物語に終止符が打たれるかと思いきや、母親の望みで記録は続けられるのだ。
ネット上の開催となったシャンゼリゼ映画祭で観客賞を受賞した話題作。筆者もこの時に見て衝撃を受けた。タイトルの「17 Blocks(区画)」とは連邦議会議事堂から一家が住む地区までの距離。遠くはないが治安は雲泥の差だ。
この作品、他の“人間定点観測作品”と異なる点がある。それは映画にする予定がなく撮影が始まっていること。だから何気なく写されたホームムービーの映像が、のちに別の意味を持つようになる。イメージの持つ根元的な力や機能、そこから溢れる感動や残酷さに胸を突かれる思いがする。(瑞)
※コロナ禍の影響で公開は延期されました。