「ただちに健康に影響はありません」。福島の原発事故後、政府がしきりに発していた言葉だ。悪い冗談のような台詞がまかり通る現実に、背筋が凍る思いをした。世の中にはある立場や利権を守るため、真実を曇らせるような濁った言葉で溢れているようだ。
だが鎌仲ひとみ監督は、混じり気のない当事者たちの“小さき声”を真空パックし、ドキュメンタリー映画にして届けてくれる。例えばそれは、子供を被曝から守るために行動する母の声。「避難しても残っている人に申し訳ない。避難しなければ子どもに申し訳ない」。複雑な思いを抱えながらも福島に住むことを選択した母たちは、通学路を除染し、安全な野菜を分け合い暮らす。その一方で足の痺れを訴えた子供とともに、福島を離れた母の声もある。故郷に残る人、離れる人。それぞれ選択は異なっていても、子を思う気持ちの深さは同じだ。やがて映画は原発事故を経験したベラルーシの“小さき声”にも耳をすます。日本はチェルノブイリの教訓を生かせてきたのだろうか。
福島の事故が起きる前から『ヒバクシャ―世界の終わりに』『六ヶ所村ラプソディー』『ミツバチの羽音と地球の回転』の核三部作を制作し、一貫して核への警笛を鳴らし続けてきた鎌仲監督。彼女だからこそ可能な深い洞察と同時に、未来への希望が滲んだしなやかな作品だ。
フランスでは目下、オランド大統領が公約に掲げた「縮原発」が形骸化しつつある。老朽化したフッセンハイム原発も存続されそうな怪しい雲行きだ。福島から5年。この節目に日本から届く“小さき声”に、在仏の私たちも耳をすませたい。(瑞)
「小さき声のカノンー選択する人々」
-
- 116min フランス語字幕版。上映後、監督のトークあり。
【日時】3月19日(土)19時
【場所】パリ国際大学都市・日本館 http://www.ciup.fr/maison-du-japon/
【入場料】5€
【予約・お問い合わせ】
tradescantia17@yahoo.com Tel. 07 88 18 65 92
サイト : https://abeillefr.wordpress.com/
上映前、17時から、朗読(日本語とロシア語)とコンサート。
歌/リディー・プラヴィコフ
アコーディオン/ミッシェル・グラスコ
ハープ/東海林悦子
入場無料。