7月12日にマクロン大統領が、医療関係者へのCovid-19ワクチン義務化と衛生パス適用拡大を発表したのを受け、23日に国会に提出された衛生危機関連法案は、両院審議を経て26日、国民議会で賛成156票、反対60票で可決・成立した。憲法評議会の承認を得れば、8月9日あたりに施行される。
法案の内容は、衛生パス(ワクチン完了/検査陰性/快復証明)については、50人以上入場可能な文化・娯楽施設は7月21日から、飲食店、長距離列車・バス、飛行機、医療施設などで8月初めから提示が義務づけられるほか、そうした施設で働く人にもパス取得が8月30日から義務づけられる。ワクチン接種解禁が6月15日と遅かった12~17歳については、適用は9月30日からになる。パスの適用拡大期間は11月15日まで。
政府原案では大規模商業施設もパス適用の対象だったが、国務院と上院の反対で最終案では削除。状況に応じて県が判断を下すことに。また法案の段階では、パスを確認しない施設は1500〜7500ユーロの罰金、4回違反で禁固1年、4.5万ユーロの罰金という厳しい刑罰だったのが、最終案では罰金(〜9000ユーロ)は残るものの、営業停止などの行政措置に変更された。
感染者は10日間の隔離が義務づけられるが、原案の警察による監視から健康保険による確認となった。高齢者施設への訪問者への衛生パス義務化も原案から削除された。原案の厳しい内容に国民議会では1200件の修正案が出て議論が沸騰、上院では大幅に修正された。24日の反対デモには全国で16万人が参加。衛生パスが適用される職場で働く人がパスを拒否すれば就労停止(無給)、それが2ヵ月以上続けば解雇という条項には労組が猛反発し、解雇は法案から削除(しかし、その後ボルヌ労働相がインタビューで「社員に、解雇はないと思わせないように」と発言し話題に。後から同相は「パスが無い社員は3日間の就労停止の後、雇用者との面談」。よき解決策を両者が見つけられるよう信頼する、と補足)。
一方、医療関係者の接種義務は、医療施設の医師、看護師ばかりでなく、高齢者施設や在宅ケアの介護士、ボランティアも含む。9月15日までに接種を完了しないと、働くことはできなくなる。
衛生パスの適用拡大は多くの国民にとって衝撃だっただろう。2回のワクチン接種の間隔が約4週間、「完了」とみなされる1週間で計5週間が必要なのに、12日発表で8月初め実施はあまりに唐突だ。
7月14日のIpsosの世論調査によると、医療関係者のワクチン接種義務化には69%、衛生パス適用拡大には62%が賛成している。6月時点でバカンスを許容した一方で、デルタ株の拡大を受けてのいきなりの義務化と罰則化。大統領の発表直後に接種予約が急増したことを見ると、ショック療法になったかもしれないが、強権的なやり方を選んだ背景には感染第4波に対する政府のあせりも透けて見える。(し)