体外受精、胚移植、卵子・胚の凍結保存などの生殖補助医療(PMA)を独身女性や女性カップルに認める条項を含む生命倫理法案が6月29日、国民議会で可決され最終的に成立した。賛成326、反対115、棄権42票だった。
「すべての女性へのPMA」解禁はマクロン大統領の選挙公約だったが、政府は慎重姿勢を保ち、国民の声を募り、国務院などの判断を仰いだ後に法案が国民議会に提出されたのは2019年秋。右派内保守派の強硬な反対に加え、キリスト教関係団体などの反対運動も起こり、メディアでも議論が沸騰。与党内でも、代理母、配偶者死後の体外受精まで含める推進派と反対派で意見が割れた末、女性のPMAのみ認める政府の路線が決まった。野党右派では何千もの修正案を出す審議遅延戦法をとり、審議は国民議会4回、上院3回に及び、野党多数の上院では今年2月の第3読会で「すべての女性へのPMA」を却下。今回、4回目の国民議会審議でやっと成立に至った。
法案の内容は、第一にPMAが独身女性や女性カップルに認められ健康保険でカバーされること。カップルの場合は2人の女性が事前に公証人の前で認知を行うことにより、出産しないほうの女性の名前も出生証明書に記載される。また、特別な医学上の理由なしでも精子・卵子の自己保存が可能に。現行法では、第3者の精子提供で生まれた子は生物学的父親の身元を知ることはできないが、新生命倫理法施行の約13ヵ月後以降は、体外受精された子は、成人に達すればドナーの身元や年齢、身体的特徴などを知ることができるように。それ以前に生まれた人についてはドナーの同意が必要。 法施行13ヵ月後からは、ドナーは情報を与えることに同意しなければならない。また、国内で禁止されている代理母出産については、外国で生まれた子の親は生物学的親である男性のみで、その伴侶の男性は養子縁組する必要がある。法案では親子関係の認知は「フランスの法律に則って評価」され、昨年末に外国の出生証明書を仏証明書に書き換えるべきとした破棄院の判例より後退した。
国立統計経済研究所の2018年の調査によると、フランスには外国のPMA施術や代理母で生まれた子が約31,000人いるが、同性婚が13年に認められたこの国で、新法は同性カップルの子を持つ要望に応える大きな前進だ。同法が代理母の解禁につながる懸念を抱く人も多く、生殖医療をどこまで認めるべきかという重大な倫理的問題を投げかける。(し)