7月12日、17日と、ツール・ド・フランスで気候問題を訴える活動家たちがコースに乱入しレースを中断させた。6月には 「あと1028日しかない」と書かれたTシャツを着た23歳の女性が全仏オープンの準決勝戦中のコートに侵入して試合を中断。建物のエネルギー効率向上のための改修策を政府に要求する団体Dernière Rénovationによるもので、他にもパリ環状線道路や高速道路で交通を妨害する行動を4月から断続的に行っている。
こうしたメディア効果を狙った動きもさることながら、フランスでは気候問題に敏感な若者が増えているようだ。このことは、官民のエリートを養成するグランゼコールの卒業式での卒業生のスピーチにも端的に表れている。
6月24日のポリテクニーク(理工科学校)の卒業式では、約50人の学生とともに壇上に上がった女子学生2人が「ネオリベラリズム論を教えられ」、「コンサルタント会社の講演会漬けになった」と学校の教育方針を批判。出席したOBの一人は、「システムに加担する駒にならないようにしよう」と訴えた。同校の学生は、後援企業の石油トタル・エネルジーが隣接地に研究所を建てることに19年から反対運動を展開している。
同日のシアンスポ(パリ政治学院)の卒業式では、壇上に上がった女学生が「政治、経済、文化制度を抜本的に変え、教育も問題(地球温暖化)に手を貸さないようにする必要がある」と訴えた。6月の高等商業学校HECの式では、「高給と引き換えに自分の信念を曲げさせる業務を行う銀行には就職すまい」という発言があり、アグロ・パリ・テック(農学・食品産業系)の式では、多国籍大企業のために作物を改変するなど環境に悪影響を与える食品産業で働くことを拒否しようと8人の学生が訴えた。
仏紙上で、ある識者は、こうした学生は少数派で、大多数は従来の進路に進むのだが、環境問題に関心を持っている学生は多く、エコロジー転換のコンサル業務やグリーン金融などを選択する人もいるだろうと述べている。
「ベジタリアンで、飛行機には乗らない」という若者が何割かは不明だが、若い世代は気候問題に敏感という点で前の世代とは一線を画している。21年秋に英米研究者が英米豪仏、フィンランド、ポルトガル、印、ブラジル、フィリピン、ナイジェリアの16~25歳の若者を対象に行った世論調査では、59%が気候変動は「非常に心配」、75%が「将来が恐ろしい」と答えており(非先進国の割合が高い)、いわゆる「グレタ世代」の危機感は高い。フランスの3月の調査では、全世代平均で気候変動に懸念を抱く人が80%、35歳未満では92%に上る。若者は気候危機を口にする一方で、自分の消費行動はあまり変えていないという批判もあるが、若者の意識が変わってきているのは事実だろう。とりわけ国の将来を担うエリートの卵たちが気候変動に対する行動を起こす機運に期待したい。(し)