エルヴェ・デュランさん
ブルゴーニュ地方のポワソン村で日本酒を醸造するエルヴェ・デュランさん(50歳)。エンジニアの仕事をしながら、醸造にとり憑かれた。醸造は「中毒のように」止められないどころか、情熱の火は燃え盛る一方で2013年、酒ソムリエに。2年前には会社「Kura /蔵」を立ち上げ、エンジニアの仕事と醸造を半々に。この1月から、とうとう杜氏一本でスタートした。
蔵では、日本酒づくりの週(三段仕込み。1週間で500ℓ生産)、ビールの週(1500〜2000ℓ)、味噌の週(300kg)と、順番で3つの看板商品を仕込む。日本酒には山田錦、ササニシキ、南仏カマルグのジャポニカ種、カリフォルニアのカルローズ。料理酒には、イタリア北部のポー平野で有機農法でつくられる米を使っている。イタリア米だと玄米酒にも似た濃厚な味の酒になるのだが、これが貝類、鶏肉、ヤギのチーズなどフランスの食材に合うという。
「今、カマルグの米の研究所で、日本の酒米を実験的に栽培しているんです。その米からできる酒、なかなかいけるんですよ、まだ商品化はしていませんが。今秋は、それなりの量を収穫して、醸造するつもり。販売も考えています」。100%メード・イン・フランスの日本酒プロジェクト!?一刻も早く飲みたいものだ。
NECのエンジニアとして、筑波と東京に7年間住んだ。その間、日本の文化、愛妻、そして麹と出会う。麹を食べた時、それまでに食べた日本のおいしい料理の味とつながり、どれだけ麹が日本食の基盤となっているかを知った。日本からフランスに戻り、友人と3人でビールを醸造しているうちに、「日本酒もやってみよう」と日本酒づくりに手を染めたのが、すべての始まりだった。生まれ故郷に戻って酒蔵を構え、日本酒を作っているうちに「粕」に興味が湧き、粕を使ったビール作りを開始。今Kuraでは、白、IPA、琥珀、黒と、4タイプのビールを作っているが、すべて甘酒の粕と、今クラフトビールの作り手に人気の日本のホップ「ソラチエース」を使っているのが特徴だ。蔵の近くには野生のホップの木があり、8月には収穫ができる。それを入れた〈特別キュヴェ〉も作るという。
「最近の発見は、酒粕とチョコレートの絶妙の組み合わせ」。酒粕を、スポンジケーキの 「カトル・カール」や、カルボナーラ・スパゲッティ、子牛の煮込み料理ブランケットに入れる。「ムール貝の白ワイン蒸しを、白ワインではなく酒で蒸すムール・マリニエール・オ・サケも気に入っています。白ワインだと酸味が口に残りますが、カスだと旨味が出ていいんですよ」。どの角度から見ても、話をしていても、この人は食いしん坊だとわかる。彼が運営するKuraのサイトには、こんな酒気香るレシピがどんどん増えている。
杜氏で一本立ちしてから、10日ほどが経過した。蔵の仕事は妻と酒造家、3人でまかなっているが、朝、蔵で米を炊き酒造の作業をするのは体力を使う。1日の終わりには、それなりに疲れも感じるけれど、「労働の成果が具体的に目に見える仕事。やりがいがある」。商品は酒屋や高級食材店でも販売するが、AMAPのような、地域の消費者が近くの生産者から定期購入する地消提携もしているため、「日本の料理や食習慣、食材について興味があるフランス人に会って、説明するのも楽しい」。忙しいけれど順調な滑り出し。どうか実り多き年になりますように。(集)
http://kuradebourgogne.fr/#home
※2月15日、18hから、エスパス・ジャポンにエルヴェさん
を招いて、試飲・試食会を開催します。
Espace Japon : 12 rue de Nancy 75010 Paris