港を望む3つの塔や大時計台、石造りのアーケード。
歴史が染み込んだ建築物の数々。心の故郷にしたい中世の街並みが広がる。
見どころがコンパクトに集まり、そぞろ歩きも楽しい。
空と海の青さが目に染みるラ・ロシェル。見どころがコンパクトに集まり、そぞろ歩きも楽しい。1930年代には『メグレ警視』で名高いベルギー人作家ジョルジュ・シムノンも移り住み、ロシュレ(ラ・ロシェルの住人)と街にインスパイアを受けた作品を発表している。
ラ・ロシェルが歴史にその名を刻むのは、小さな漁村に過ぎなかった約千年前。11世紀には敵から入江を守る城塞が築かれ、13世紀は交易で栄えた。18世紀にはナントやボルドーと並び、フランスの三角貿易(奴隷貿易)の重要拠点に。他にも17世紀には、ユグノー(カルヴァン派プロテスタント)が弾圧されたり、第二次世界大戦下ではナチス軍の最後の拠点になったりと、複雑な歴史を持っている。
旧港にあるサン・ニコラ塔の足元に広がるのは、再開発が続くガビュ地区。もとは漁師の町だったが、今はカラフルな北欧風の建物が並ぶ。ギャンゲット(古き良き大衆居酒屋・ダンスホール)風の文化スペースLa Belle du Gabutでは、コンサートやダンスなどのイベントが目白押しだ。
港を望むゴシック様式の大時計台は、かつての要塞都市の城門。これをくぐれば旧市街で、周辺には「天井のない美術館」とも称される石造りのアーケードが伸びる。中世から商業で栄えた名残で、雨に濡れず商売ができる利点があった。シムノンは 「冷たく湿ったトンネルのよう。遠くにしか光がなく、闇に開く正門があるだけ」と、雰囲気たっぷりに描写している。
旧市街から川を挟んだサン・ニコラ通りは、洒落た雑貨屋や陽気なバーが並び賑やか。もちろんシーフードが美味しく、文化度も高いから、生活満足度は高そう。しかし街は浮かれ過ぎず、歴史の証言者である石造りの建造物はみな重厚で、地に足がついている。思わず歴史に思いを馳せ、思索に誘われてしまう。何度でも通って心の故郷にしたくなる街だ。