仏英漁業紛争がくすぶり続けている。ジラルダン海洋相が11月18日、英海域での漁業許可証が取れない漁船には補償をする用意があると発表して漁民の猛反発を食らい、マクロン大統領が「闘い続ける」と対決姿勢を強調する一幕もあった。
今年1月の英EU離脱に伴い、2026年6月までに英経済水域におけるEU漁業割当25%の英返還が決まり、英水域で操業するEU漁船に英国の漁業許可証が必要になった。さらに、英政府が4月、英領ジャージー島海域の操業可能区域・日数を一方的に公表し、仏漁船が抗議運動を展開した経緯もある。同島当局は2017~20年に年間10日以上操業した実績がある漁船に許可証を発給するとしたが、位置情報システムのない小型船は操業を証明する書類がないことや手続きが煩雑なため、許可が取れない漁民の不満が高まっていた。
10月27日、仏政府は11月2日から英漁船の仏港への荷揚げ禁止と英輸入品に対する検査の強化という報復措置を通告。英国側は10月末時点で98%のEU漁船に許可証を出しているとして強く反発した。マクロン氏は31日に報復措置の棚上げを決めたものの、両国協議に進展がないまま、海洋相が18日、許可証を得られず操業を停止する船に総額4千万~6千万ユーロの補償金を支給すると発表して、「フランスは英国に屈したのか?」と漁民の怒りを買った。翌日、マクロン大統領が「闘い続ける。漁民を見捨てない」と宣言し、EU委の交渉が遅いと非難。EUが打開策を見い出せないなら、12月半ばにフランスが何らかの姿勢を明らかにするとした。弱腰との野党の批判に対して大統領選を意識したポーズでもあろうが、仏英間の対立は頂点に達している。
ジャージー当局が発給した漁業許可証は11月19日時点で220件、発給を待つ申請は150件。仏海洋相によると、英国は90%のEU漁船に許可を与えているが、残り10%はほぼ仏漁船で、多くはジャージー、ガーンジー両島海域を操業する船だという。英国は海産物の75%を仏港からEUに輸出しており、荷揚げ禁止措置が実行されれば、仏国内市場にも影響が出る。ジョンソン首相の強硬姿勢は漁業問題に限らない。北アイルランドと英本土間の商品輸送に規制のかかる北アイルランド議定書の見直しをEUに求めており、議定書第16条のセーフガード(一部効力を一方的に停止)を発動するのでないかと仏紙は予測する。そうなると英EU離脱協定を事実上見直すことになり、英EU関係が悪化するのは必至だ。(し)
12月1日になって、ガーンジー当局は40の漁船に漁業許可証を発給。フランスは12月10日を目処に、111件の許可証を発給を求めていく方針。