Jean-Claude MARTINさん
ジャン=クロード・マルタンさんが工学・技術系エリートを輩出するエコール・サントラル・パリで勉強していた1950〜60年代、パリのシネマテークではアメリカが日本から没収したプロパガンダ映画がかかっていた。映画のなかの日本人は、口数は少ないが忠実で、石頭なところが自分の故郷ブルターニュの人たちと似ているように思え、親近感が湧いた。もっと日本について知りたいと思うようになった。
1968年、マルタンさんは旅に出る。パリからウガンダ、タンザニア、インド、セイロン、タイ、カンボジア、香港、そして日本。日本からインドネシア、ニューカレドニア、タヒチ、メキシコ、アメリカ、マルチニーク、トリニダード、グアドループを経て帰国という6カ月の世界の旅。たくさんの国を訪れたなかでも日本は、北は青森から南は鹿児島の指宿まで、念入りに2カ月間かけて周った。パリで知り合った日本人の家族に迎えられて日常生活に触れたり、カメラを片手に、能面、障子、型紙、下駄など様々な職人の仕事の映像を撮りながら日本を縦断。その後、1973年には学生ビザを得て、6カ月間東京で日本語の勉強をする。
その後も、日本企業がアフリカに進出する時のコンサルタントを務めるなどしながら、日本とは密に関わり続けた。
初めて東京を訪れた時は、神保町で「Japan for foreigners 」(64年版)を買ったマルタンさん。当時は漢字の読み書きができなかったが、勉強したくても、フランス語で書かれた日本語の参考書もなかった。だから自分で漢字の覚え方を研究することにした。
漢字を構成する部首(偏旁冠脚/へんぼうかんきゃく、垂/たれ、構/かまえ、繞/にょう、など)には「音」を示すものと、絵(記号)として「意味」を示すものがあり、それの組み合わせで漢字が作られている。例えば「宅」という字は屋根とか家を表す「宀 うかんむり」と、発音を示すつくり「乇 たく」から構成されるから、詫、託などは「たく」と読む。この基本を覚えれば、漢字は楽しみながら、難なく覚えられる。
このやり方で当用漢字1945字を分析し、まとめたものを国立東洋言語文化研究所(INALCO)の学生さんたちに配った。これが「Mémento des Kanji」(1984年)。今日まで改訂版を10回重ねた、フランス人に使いやすいロングセラー漢字辞典の初版だ。
母校のエコール・サントラルから、エンジニアとしての研修で日本に行く人が多かったので、彼らのために「30時間で500字の漢字をマスターし、日本語の技術書を読めるようになる」コースを考案したり、99年で退職するまで、同校で10年間にわたって漢字の授業を担当。それ以来、さまざまな場所での授業や講演会を行う。今年はサイトを立ち上げた。そこに登録すれば『Mémento et dictionnaire des Kanji』のソフトを介して常用漢字2143字を検索できるよう開発した、「一生涯の作品」だ。
「書かれた文章」を共有しないことには、異文化を理解することや、その文化圏の人を愛することは難しい、というのがマルタンさんの持論。何事にも近道は、ありません。(集)
Conférence sur les Kanji par M.Jean-Claude Martin
《ジャン=クロード・マルタンさん講演会》
“Mémento des Kanji”のサイトもお試しいただけます。
2019年2月7日 (木) 18h-。入場無料。
予約: coursdejaponais@espacejapon.com
Espace Japon
Adresse : 12 Rue de Nancy , 75010 Paris , FranceTEL : 01 4700 7747
アクセス : M°Jacques Bonsergent / Gare de l’Est
URL : www.espacejapon.com/