《インペリアル》
ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の権力の痕跡。
駅舎周辺は 「インぺリアル地区」と呼ばれ、20世紀前半のドイツ皇帝の権力を如実に伝える場所。普仏戦争で完敗したフランスは、1871年にフランクフルト条約でドイツにメッスを割譲した。住民の嘆きをよそに、メッスは1918年までドイツ支配下に。とりわけヴィルヘルム2世の治世下に、町のドイツ化が急速に進んだ。
その象徴が駅舎。1904から08年にかけ、軍事利用のためにべルリンとメッスを結ぶ必要から建てられた。建築家はユルゲン・クルーガー。幅300メートルは当時のドイツ帝国で最大。中世の教会をイメージしたネオロマネスク建築は、鉄道の駅で唯一の例だ。外観や内部には実用かつ啓蒙的なレリーフが刻まれる。これは文字を読めぬ市民にもわかるよう意識したもの。今もその多くが残り、興味をそそられる。待合室や食堂を示すレリーフは、金持ちと貧しい乗客とを分けて描く。金持ちは犬を飼いワインを飲む。貧乏人は倒れこむようにお疲れの様子で、飲み物はビールだ。ドイツ帝国が先進的な国であることを示すため、堂々たる船舶や汽車も描かれた。また皇帝専用の豪華なサロンも備え、毎年文化遺産の日に一般公開される。ホーム一番線には皇帝専用のVIPドアも残る。
皇帝の意のままに造られた駅舎だが、市民にとって彼は征服者。嫌われ者の空気は感じていたようで、実際は趣味の狩りに行くための中継地として寄るだけで、サロンはあまり使っていなかったとか。緑の瓦を使った建物は、「ほうれん草のパイ」と揶揄された。
◎メッス、「最も美しい駅」
今年2月、SNCFの子会社が「フランスの最も美しい駅」コンクールを実施した。リヨン、ストラスブールなど16の駅の頂点に立ったのがメッス駅。次点のラ・ロシェルに2倍以上の得票差をつけた。3月には駅構内に金の記念プレートを設置。名誉の称号を追い風に、年末には元ホテルリッツのレストランの料理長で、ロレーヌ地方サルグミーヌ市出身のミシェル・ロスが、同駅のレストランで腕をふるう予定だ。
さて同地区には郵便局や給水塔も残る。豪邸が並ぶフォッシュ大通りは、異なる装飾建築のヴィラが絶妙なハーモニーを織りなす。また場所は離れるが、オペラ劇場のはす向かいには中世様式の寺院タンプル・ヌフ(表紙)が残る。当時の住民は複雑な気持ちで眺めた建築群も、今はすっかり町に溶け込む。2020年には駅前広場に、フィリップ・スタルクの内装デザインによるフォッシュ大通りのヴィラをイメージしたホテルが開業予定だ。