マクロンの大統領当選から、非常にあわただしい10日間が過ぎた。
11日には改名したマクロンの政党「La République en marche(前進する共和国)」が総選挙(国民議会議員選挙)公認候補リストを発表した。国民議会議員定数577人と同数の候補者を立てる予定が428人しか発表されず、提携したはずの中道Modemのバイルー党首が、自党の候補者が少なすぎるとリストを怒ってこれを拒否。翌日には両者再協議の上、100人強のModem党員がリストに載ることになった。
14日(日)は終日、一連の大統領就任行事。朝10時に大統領府に到着したマクロンは赤い絨毯をゆっくりと踏みしめながら、入口で迎えるオランド大統領のもとへ近づく。引き継ぎが終わって、オランドは大統領府を後にするとき、マクロンに「がんばれ」と激励した。自分が政界に引き上げた人間に大統領の座を追われる形になったが、オランドは敵である右派にを引き渡すよりも味方(?)に譲るほうがいいと言ったらしい。
就任式を終えたマクロン新大統領は、大統領は軍の長であることを強調するためか、軍の車両でシャンゼリゼ大通りを行進するという、これまでにない演出。パリ市庁舎での17時のレセプションまで大統領就任行事はつつがなく厳かに行われ、弱冠39歳のマクロンは見事に大統領の顔を身につけたという印象を与えた。
16日は首相任命。朝8時すぎから首相交代のためにスタンバイしていた首相府のスタッフは15時前まで待たされることになる。左右両派をうまく取り込むため、共和党の穏健派ジュペ派のエドゥワール・フィリップを首相に任命。共和党の中でマクロン政権に参加や協力を申し出ている大物たちが、右派からの首相任命を条件としていたからだ。
右派のタカ派と穏健派の分離は加速され、マクロンの政策を国会で支持しようという者と、反対するという者とに分かれている。社会党のほうも、カンバデリス第一書記がマクロン陣営から総選挙に出馬する者は党除名になると脅しをかけて崩壊寸前だ。
そして、17日の新内閣メンバーの発表。閣僚は男女同数、政治的なバランスを取り、半分は政治家経験のない「市民社会」からというマクロンの約束にほぼ沿った形になった。
男女半々の大臣18人と閣外相4人。ルメール氏(経済相)など右派共和党2人、社会党から入閣したルドリアン前国防相(外相)と、元は社会党でほぼ1年前からマクロン支持にまわっていたコロンブ=リヨン市長(内相)、フェラン氏(国土相)、カスタネール(国会関係調整閣外相)の3人。急進左派2人で左派は4人、バイルー氏(法相)ら中道 Modemが、グラール氏(軍事相)、ド・サルネーズ(欧州担当閣外相)。
「市民社会」からは10人だが、出色の人選はエコロジー移行・連帯相のニコラ・ユロ氏だ。エコロジストとして国民に人気が抜群で、シラク、サルコジ、オランドと3人の大統領に入閣を乞われて断った人物だ。政党色のないマクロンの要請だから引き受けたのかどうかはわからないが、根っからのエコロジストであるユロ氏に期待したい。そのほか、医学教授のアニエス・ビュザン氏(連帯・保健相)、ミュリエル・ペニコー労働相(ダッソー、ダノン元幹部だが労働相顧問の経験者)など。労働相は今後労働法改正で矢面に立たされる厳しい役割だ。
この閣僚任命で各党の総選挙候補者に多少の動きがあるかもしれないが、総選挙でマクロン大統領の政党(17日に522人の最終リストを公表)とその賛同者が多数派あるいはそれに近い議席数を確保できるかどうか、非常に気になるところだ。(し)