そもそも、どうして「折る」のか。「私は皮膚や甲羅、甲冑など、体を包むものに惹かれます。人は何かしら時機が来ると脱皮して、次の段階に進む。でも脱皮は自分の一部を失うことでもある。折ることによって自分の作品に自分の時や跡を残すのだと思います。皮膚に皺や襞ができるように」。
内装建築家でもあるセミネリさんは、従来服飾の世界のものだった「折り布」を、インテリアに応用した。型紙は使わず、折り紙のように手で麻布を折ったものを光に透かすと、布の折り重なり具合で濃淡の模様が浮かび上がる「テキスタイルのステンドグラス」と呼ばれる新しいコンセプトのブラインドやカーテンがセミネリさんの名前を広めた。ディオールやシャネルなどのブティックを設計する建築家ピーター・マリノとのコラボレーションで、シャネルの店舗のために「布のステンドグラス」を作り続けて17年になる。設立20年になる会社は政府から無形文化財企業ラベルEPVを与えられ、今はニューヨークとパリ、ノルマンディーに拠点を構える。
メートル・ダールは、技の伝承だけではなく、産業界や先端テクノロジーと提携しながら伝統工芸を未来に向けて押し進めるという課題がある。そして芸術家としての創造性も必要とされる。「折り」を表現言語として塑像作品を作り、内装デザインの仕事をし、企業を経営するセミネリさんは、まさしくそんな多芸多才の師。今回の《フランスの人間国宝展》で日本を訪れるのは2回目。ちょうど今ごろ、東京の空の下、他の国宝たちと集っているのだろう。(美)
フランス人間国宝展 9月12日~11月26日
会場:東京国立博物館表慶館
住所:東京都台東区上野公園13-9
時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)
休館日:9月18日、10月9日を除く月曜(9月19日は休館)
料金:600円〜1400円 www.fr-treasures.jp
「テキスタイルのステンドグラス」が見られるサイト。
http://www.seminelli.fr/