『 Finding Phong』
このポスターの人物と題名『Finding Phong』に惹かれて観た映画…。
前半は主人公フォン自撮りのビデオ日記だ。幼い頃から不幸だった、年老いた両親を故郷に残してハノイに戻るのが辛い、といった苦悩をめそめそとカメラに向かって訴えている。フォンは自分のことをずっと女の子だと思ってきたのに肉体は男の子、トランスジェンダーとして生きることに苦しんでいるのだ。高齢の父はフォンに理解を示す。母の方はフォンに真っ当な(?)男子であって欲しいようだ……。
カメラが、トラン・フオン・タオ(ベトナム人)とスワン・デュビュス・マレ(フランス人)ふたりの監督の手に渡り、フォンのハノイでの暮らしが映し出される。冒頭の暗さに比べて意外にも活気に溢れている。職場の国立水上人形劇場を紹介するフォンは誇らしげだ。女友達にメイクのノウハウを教わって女に磨きをかけるフォン……。
性転換手術を受ける決心を固めるためにフォンは、タイはバンコクへ向かう。医者と面会し、夜はバンコクナイツをしっかり楽しむ。姉兄と性について、女の人生や男の生き方を語らう。二人はフォンの決心をサポートしてくれる……。
映画の後半で印象的なのは、バンコクの病院の対応だ。手術内容が図解でかなり生々しく示されるのだが、説明する医師がやけにあっけらかんと朗らかなのだ。病院スタッフも同様で、ここに手術に来る人を前向きに励ます。当然と言えば当然だが、肯定的でありながらどこか機械的な姿勢……。
かくしてフォンは肉体的にも女性になった。悩んだ末の決断。後悔はないだろう。これから本当の女の人生が始まる……。
本作はトランスジェンダーの性転換という主題の奥に、フォンという甘えん坊でナルシストだけど、愛らしく憎めない人物像と、背景にある現在のべトナムやタイの社会が見え隠れする正統派ドキュメンタリー。(吉)