仏カトリック教会の性的虐待についての報告書が10月5日に公表された。1950~2020年に21万6千人の被害者がいたという実態を仏メディアは一斉に報じた。
この報告書は、プレナ神父の少年性虐待を教会が隠蔽した事件を受け、被害者団体の求めにより仏司教会議(CEF)と修道士・修道女等の会議(Corref)が、独立委員会(Ciase)に依頼したもの。同委員会ではジャン=マルク・ソヴェ元国務院副長官の指揮のもと、社会学者ら22人が2年半かけて調査した。その結果、聖職者らによる性的虐待の被害者は1950年から70年間に21万6千人(カトリック系学校、カテキズム、カトリック系の若者活動を含むと33万人)に上る。その84%は未成年で61%は男子だ。聖職者による未成年への性的虐待は親族内のそれに次いで多く、現在の成人人口の1.16%が被害者。加害者は2900~3200人の司祭、助祭などで、委員会は教会における性的虐待は「大規模」で「制度的」と結論づけた。委員会は、80年代まで沈黙のルールが支配的で、2010年代に入ってやっと教会内で問題が認識され始めたと分析する。「隠蔽、相対化、否認」の教会の体質を厳しく批判し、問題の原因は「司祭の過剰な神聖化」「独身主義の美化」「セクシュアリティの過剰なタブー視」を擁護する教会法だとした。
その上で委員会は、加害者の個人的責任だけでなく、組織としての教会の責任を認めること、時効を過ぎた犯罪についても事実検証に教会が協力すること、さらに賠償制度を独立機関に託し、信者の寄付に頼らずに教会の資金から出すことを提案。支給については教会幹部も同意しているが、「賠償金」でなく「貢献金」と呼ぶ。報告書を受け、CEF会長のムーラン=ボーフォール大司教は、司教の個人財産と信者の寄付からなる500万ユーロの基金を設立する意向を示した。一方、被害者団体は報告書の内容を歓迎し、教会の組織的改革を求める声明を発表した。
報告書は教会法の具体的な改革案については言及していないが、性犯罪行為に関する「告解」の守秘義務を見直すべきと提案している。しかし、CEF会長は6日、告解の守秘義務を規定する教会法は国家法に優先すると発言。デユポン=モレッティ法相は告解で未成年の性的虐待が発覚したら司祭は通告する義務があると反論し、議論を呼んでいる。教会側は報告書に対する措置を11月には発表する予定だが、これほどの事実が突きつけられた今、教会は厳しい選択をすべき時期に来ているのではないだろうか。(し)