燃料費の高騰に対し、カステックス首相は10月21日、税引き後の月収が2000ユーロ未満の人に「インフレ補償金」100ユーロを自動的に支給すると発表した。
給与中央値の2000ユーロを基準とする「中流層への補償金」である一律支援金は3800万人が対象。世帯でなく個人が対象で、給与所得者は雇用主を通じて12月から、その他(退職者、自由業、失業者、奨学金受給の学生など)は1~2月に支給される。また、首相はガスの市場価格上昇の継続が予測されることから、来年末までガス料金凍結を約束した。
21日時点でガソリンの平均小売価格は1.62ユーロ/ℓ、軽油は1.56ユーロと2012年以来の高値を記録。国立統計経済研究所(INSEE)によると、石油製品の価格は9月時点で1年前の20%増、天然・都市ガスは39%増だ。エンジー社などが供給する政府認可のガス規制料金は昨年秋からほぼ毎月値上がりし、今年1月比で57%も上昇。首相は9月15日に、エネルギー小切手を支給されている低所得世帯(580万世帯)に12月分を100ユーロ増額するとしたほか、29日には来年4月まで料金を凍結すると約束。2月に12%値上げ予定の電気の規制料金(EDF)も4%程度の値上げに抑えるとした。化石燃料製品の価格高騰は世界的なもので、コロナ禍で停滞していた経済の復興により需要が高まったことに加え、環境保護基準の厳格化により生産コストが上昇したため、と仏紙は分析。特にロシアからの天然ガス供給が滞り、欧州のガス備蓄が減少している。
共和党は石油製品へのTVA(付加価値税)廃止・削減を求め、左派は焼け石に水の支援金より給与や年金を引き上げるのが先決と批判。消費者団体は支給開始が遅すぎる上、影響の大きい車所有者などに対象を絞るべきと批判する。政府は、TVA削減は税収に響き、対象を絞るには時間がかかり支給方法が複雑になると却下。2018年の黄色いベスト運動は燃料費値上げの反対運動から始まったが、政府はその再燃を恐れて、対策を早急に打ち出したかったようだ。エネルギーだけでなく、悪天候や気候変動の影響から小麦粉原料の製品や生鮮食品も値上げ傾向にあり、昨年8月から1年間のインフレ率は1.9%と、とくに低所得層の生活圧迫感は強い。欧州でも低所得世帯支援金などの措置をすでにとっている国もあり、フランスは出遅れた感が否めない。黄色いベスト運動も小規模ながら23日から各地で始まっており、半年後に大統領選を控えた政府は厳しい立場に追い込まれている。(し)