アニエス・ヴァルダに会いに行く。
取材・文・写真/林瑞絵
冒険と開拓精神に満ち、時に辛辣。だが共感や遊び心にあふれ、独自の美意識でこの世の美しさをとらえた。それが先日亡くなったAgnès Varda(1928-2019)の世界。寂しいけれど、寂しくはない。 その気になればいつだって、作品やゆかりの地を通して、また彼女に会いに行けるから。
映画監督、ヴァルダ。
映画監督として著名であり、写真家、ヴィジュアル・アーティストの顔も持つヴァルダは、1928年5月30日、ベルギーのイクセル生まれ。父からギリシャ、母からフランスの血をひく。大戦を逃れるため1940年に家族で南仏セートに移り、以後はフランス暮らし。 20歳の頃アヴィニョン演劇祭創設者ジャン・ヴィラールの勧めでカメラマンに。1954年に製作会社を立ち上げ、翌年、処女作の映画『ラ・ポワント・クールト』を発表。以後、短編と長編、ドキュメンタリーとフィクションを行き来しながら、自由な映画作りを続けた。代表作に『5時から7時までのクレオ』『幸福(しあわせ)』『冬の旅』など。“望まれた子”を産む権利を描く『歌う女、歌わない女』を撮るなどフェミニズムにも共感を寄せた。『シェルブールの雨傘』の監督である夫のジャック・ドゥミや、『ラ・ポワント・クールト』の編集を担当したアラン・レネらとともに、 「ヌーヴェル・ヴァーグ左岸派」とも称される。 映画100年を祝した 『百一夜』で興行的には失敗したが、新世紀もデジタルカメラで新しい映像表現に挑戦。『落穂拾い』、自伝的な『アニエスの浜辺』、54歳下のアーティストJRとの共同監督作品『顔たち、ところどころ』などで若いファンも急増。近年は現代アーティストとしても活躍した。
● 遺作 『アニエスによるヴァルダ』(2019)
今年2月のベルリン映画祭出品。映画作品としては遺作。第1部を20世紀、第2部を21世紀に分け自身の仕事を講演や過去作品の映像を交え振り返る。とにかく喋る喋る!彼女こそcauserie(おしゃべり)の達人だ。Arteのサイトで5/27まで無料で鑑賞できる。 www.arte.tv/fr
ヴァルダ監督を知るための3本。
● 『 5時から7時までのクレオ Cléo de 5 à 7 』 (1962)
カメラは病気の診断結果を待つ若い歌手の5時から7時までを追う。前半は周囲から見られる受け身の彼女が、後半から主体的に行動する存在へと脱皮する。ゴダールとアンナ・カリーナ、ミシェル・ルグランの出演も楽しい。サングラスなしのゴダールは後年、映画『顔たち、ところどころ』でも語り草に。
● 『 冬の旅 Sans toit ni loi 』(1985)
冒頭で示されるのは若い女性モナの死。彼女はどこからやって来たのか。映画は生前の彼女を知る人々の記憶を紡いでゆく。モナの清々しい反逆精神は、安易な同情を跳ね返す。当時18歳の女優サンドリーヌ・ボネールの素晴らしさよ。ヴァルダは生前「私の唯一のヒット作」と自嘲気味に語っていた。
● 『 落穂拾い Les glaneurs et la glaneuse 』 (2000)
ある日、ヴァルダはマルシェで野菜を拾う人々を見て、ミレーの絵画「落穂拾い」を思う。そしてカメラ片手に、現代の落穂拾いを探す社会考察の旅に出た。劇中に登場した売り物にならぬ 「ハート型ジャガイモ」は、以後お気に入りのモチーフに。デジタルカメラとの出会いは、ヴァルダに自由の羽を与えた。
Château de Chaumont
Adresse : Domaine de Chaumont-sur-Loire 41150 Chaumont-sur-Loire,TEL : 02.5420.9922
URL : http://www.domaine-chaumont.fr/fr