フランス人に、ジャガイモ料理ではなにが一番好き?というアンケートをしたら、ベストワンは、(A)タイプのジャガイモ*で作るフリットと呼ばれるフライドポテトにちがいない。
外側がカリッと揚がっていて、中がホクホクッなら、マスタードやマヨネーズでいくらでも食べられる。けれど、こんなフリットには、レストランでもなかなか出会えない。家で作ろうとすると、大量の油を使うし、そのあと処理が大変だし、台所に臭いがこもってしまう。というわけで、ステーキやソーセージ、あるいはタルタルステーキの付け合わせには、(B)タイプ**のジャガイモのソテー(コラム参照)がおすすめ。ニンニクやハーブで香りをつけることもできる。
フリットに負けない人気ものは、グラタン・ドーフィノワ。(B)タイプを輪切りにしてから生クリームでおおってオーブンで焼くのだが、卵を加えたり、おろしチーズでおおったり、ベーコンを加えたりと各家庭さまざま。わが家では、できるだけシンプルを目指す。ナツメグの香りが決め手です(コラム参照)。グリーンサラダを添えれば、立派な一食になるだろう。
豚肉の煮込みポテ、牛肉のワイン煮ブッフ・ブルギニョン、あるいは子羊肉の煮込みナヴァランなどに入った(B)タイプのジャガイモの、肉やほかの野菜のうまみをたっぷり吸い込んだおいしさ!アイリッシュシチューも、羊肉の風味と一つになったジャガイモの味わいが記憶にのこる一品だ。話はさかのぼるけれど、1845年から1849年にかけてヨーロッパでジャガイモの疫病が大発生し、ジャガイモだけを栽培し、それだけを食べて生きてきたといってもいいアイルランドの農村部を直撃。約100万人が餓死あるいは病死したという。アイリッシュシチューを味わうたびに、この大悲劇をついつい思い浮かべてしまうのはぼくだけではないだろう。
ラペというサン・テチエンヌ名物のジャガイモのガレットは、(B)タイプのジャガイモ、玉ネギ、卵さえあればたちどころにできてしまう。これもサラダを添えれば簡単な食事になるのでぜひおぼえたいものだ。
手ごろな予算で、これだけ多様な料理ができるジャガイモ万歳!(真)
*(A)タイプはマッシュやポタージュ向きでビンチュbintje種が一般的。
**(B)タイプはソテーしたり、煮込みに入れたりするジャガイモで、シャルロットcharlotte種やロズヴァルroseval種など。
Pommes de terre rissolées
友人から教わった、おすすめのジャガイモのソテーのレシピです。シャルロット種などのジャガイモを、洗って皮をむく。新ジャガなら皮付きのままの方がうまい。下煮しないのでさいの目より大きめといった感じに切り分ける。フライパンに油をやや多めにとり、ジャガイモを加え、ときどき混ぜ合わせながら、弱火で20分以上、辛抱強くいためていく。まんべんなく焼き色がついたら、塩、コショウ。カリカリッといため上がったジャガイモに、細かくきざんだニンニクとパセリを混ぜ入れると、さらにおいしくなる。
Gratin dauphinois
ドーフィネ風ジャガイモのグラタンだが、最近はソースが少し軽くなるように、生クリームと牛乳を半々にしている。
まずシャルロット種のような(B)タイプのジャガイモの皮をむき、洗ってから4ミリの厚さの輪切りにする。このへんでオーブンの目盛りを160度に合わせて点火。
大きめのオーブン皿全体に、先端を切って切れ目を入れたニンニクをこすりつける。次いでバターをこすりつけ、ジャガイモを加え、軽く塩、コショウ。忘れないようにナツメグ少々もおろし入れたら、混ぜ合わせる。
牛乳と乳脂肪30%の液状生クリームそれぞれ400ccをボウルにとって丁寧にミックスし、ジャガイモの上から、それがすっかりかぶるように注ぐ。熱くなっているオーブンに入れ、約1時間、表面にきれいな焼き色がついたらでき上がりだ。熱々をとり分ける。メインにしてもいいし、牛肉や羊肉のローストなどに付け合わせれば、ぜいたくそのもの。
Baraque à frites
フリットは17世紀末にベルギーで考案されたというだけあって、ベルギー人がフリットに寄せる愛着は並大抵ではない。baraque à fritesあるいはfriterieと呼ばれる、揚げたてのフリットを売っている露店がベルギー全体で1200軒あり、みんなそれぞれ自慢の店を持っている。牛脂で二度揚げされた、外側カリッ、中ホクホクッの熱々フリットを好みのソースにつけてほおばる楽しさ。深夜でもちょっとおなかがすくと「散歩してくるよ」などと言ってbaraque à fritesに出かけていくのだ。