ロシアのガス供給停止。この冬、停電・ガス供給停止はあるのか。
ロシアのガスプロムは8月30日、仏エネルギー会社エンジーへの天然ガス供給を1日から完全に停止すると発表した。また、運転を停止している原子炉が多いために今年は発電量も低下しており、エネルギー消費が高まる冬に計画停電の可能性も浮上している。
ガスプロムはエンジーの未払いを理由に供給停止を決めた。エンジー側は供給されなかった分を支払っていないだけとしており、ロシアからのガス供給は全体の4%にすぎず、国内のガス供給に問題はないとした。フランス全体ではロシアからのガス輸入の割合は、ウクライナ戦争前の17%から9%に低下している。さらに、ガスプロムはバルト海のパイプライン「ノルドストリーム」による欧州への供給を点検を理由に31日から3日間停止した後、2日にはタービンの故障を理由に停止すると通告。欧州各国は供給源の多様化やガス消費削減などによる対応を迫られている。
電力不足の懸念
電力のほうでは、仏電力会社(EDF)の原子炉56基のうち配管腐食と点検のため24基しか稼働していないこともあり、冬季の電力不足の懸念が浮上している。マクロン大統領が24日に「豊富さの終焉」を宣言したように、政府は省エネ姿勢を明確に打ち出すようになった。
ボルヌ首相は1日、ガス備蓄は9割まで進んでいるため、10%節減の目標が達成されれば、一般家庭へのガス供給停止はないが、工業部門では制限があり得ると発言。また、パニエ=リュナシェ=エネルギー転換相も30日、省エネが十分な成果を上げない場合は厳冬時に計画停電の可能性もあるとした。
計画停電は、事前に地域を区分して順番に電力の供給を一時停止すること(輪番停電)。この冬の寒さが厳しくなれば、最悪、一般家庭も含めた1日2時間程度の輪番停電、それほど寒くなければ企業のみを対象とした計画停電も政府は視野に入れているという。
2日のエネルギー問題について国防委員会の後、エネルギー転換相は、EDFは冬までに全原子炉を運転させる意向だとした上で、国を挙げての省エネ努力が不可欠とした。公的機関や一般家庭向けの具体的な省エネ対策は10月頃に発表される予定だ。仏経営者団体MEDEFは政府からの10%の省エネ要請に応じており、暖房温度の低下、照明節減、電子機器の使用などの省エネ対策をすでに採用している企業もある。政府は全企業に省エネ計画を今月中に提出するよう求めている。
どうなる?電気・ガス料金
供給不安だけでなく、電気・ガス料金のことも気になるところ。欧州では電気・ガスの市場価格が高騰しており、フランスでは1メガワット時(MWh)あたり1130€と1年前の13倍に達した。ルメール経済相は年末までの料金凍結の後は低所得世帯向けに「エネルギー小切手」を支給すると約束している。つまり、低所得世帯以外では1月以降の電気・ガス料金が高騰する可能性があるということだ。アタル会計相は3日、「2023年も何らかの防壁を維持する」と発言しており、より詳細な政府の対策発表が待たれる。
価格凍結の対象にならない産業部門では電気・ガス価格は高騰しており、ガラス製品製造Duralexがエネルギーが生産コストの5割に達したとして冬季の生産停止を決めたように、工業部門への影響は必至だ。ルメール経済相は、電気・ガスを大量に消費する産業(アルミ、スチール、紙、セメント、ガラスなど)に対しての支援策(予算30億€)を当初の8月末から年末までに延長し、申請を簡略化すると約束した。
今から冬の終わりにかけて計画停電を避けるための省エネ努力は必至だが、料金値上がりにも不安がある。英国では家計の電気・ガス代が1年前のほぼ3倍になって不満が爆発、料金不払い運動などの抗議運動も起きているが、フランスはそのような事態にならないことを願いたい。(し)