『Une femme fantastique』
『Une femme fantastique/素晴らしい女性』は、主人公マリナにものすごく感情移入しながら観た。マリナは30代半ば(?)、昼間はレストランでウェイトレス、夜はクラブで歌っている。映画は初老の男性オルランドの日常描写から始まる。彼はマリナの愛人で二人は同棲中。この日は彼女のお誕生日で夕食の後は愛の巣へ。ところがオルランドは夜中に不調を訴え、マリナが病院に担ぎ込むも急死してしまう。これが物語の導入部だ。
ここからマリナは理不尽な闘いを強いられることになる。オルランドの遺族、彼の妻や子ども、親戚は彼女の存在を抹殺しようとする。オルランドが彼女と交際していたことは一族の恥といわんばかりだ。しかし、彼女は本気でオルランドを愛していたので納得がいかない。不当な遺族の仕打ちにもめげず、彼女はオルランドの弔いに挑む。一方で、オルランドの死に方に不審な点があるとして、警察が執拗に彼女を追う。マリナは逃げない。一つ一つの障害に毅然と立ち向かう。いや、逃げそうになったこともある。でも彼女は、自分の真実を突き進むことを選ぶ。彼女は芯の通った強い女性だ。過去に大変な選択をして来たからかもしれない……。
Dignité(尊厳、品位、誇り、自尊心)というフランス語が好きな私が、マリナに感情移入したのは、まさに彼女にはディニテがあるからだ。先日他界されたシモーヌ・ヴェイユ氏があれだけ尊敬されたのは、彼女はディニテそのものだったからだ。
チリ出身のセバスティアン・レリオ監督は、世界的に話題になった前作、58歳の女性の返り咲きを描いた『グロリアの青春』(2013)についで、今回また一つの女性像を我々に提示してくれた。本作について監督は「アイデンティティは肉体と結びついているわけではない」という謎の言葉を残している。その心は? 映画をご覧ください。(吉)