5月の大統領選の左派予備選の候補者ブノワ・アモン元教育大臣が、国がすべての成人に毎月750ユーロを支給する「ベーシック・インカム(le revenu universel)」の導入を公約に掲げ、議論を呼んでいる。一定の所得を保証し、労働に縛られず、人生を豊かにしようという考えだ。
アモン候補の案では、2018年から現行のRSA(25歳以上で月額収入が一定基準以下の人に支給される手当)の額を引き上げ、18〜25歳には無条件でベーシック・インカムを支給する。その後、成人した国民全員に毎月750ユーロの支給を広げる計画。「収入を安定させ、労働と自由時間の新たな関係を築く」ことを目的としている。
しかし、様々な問題も指摘されている。「国内総生産の4分の1にあたる、4000億ユーロが必要になるため、税金を50%引き上げなければいけない」と財政上の不可能性を批判されたり、マニュエル・ヴァルス前首相は「怠惰の社会に反対」と、労働の持つ価値が損なわれることを危惧する。 ベーシック・インカムの考えは、世界的には新しいものではない。アメリカでは1968〜72年に、シアトルとデンバーで試行された。世帯の主な収入を支えている人にはほぼ変化がなかったが、配偶者の25%が勤務時間を減らし、家事や子供の世話に時間を割いた。また若年層が学生でいる期間が長くなり、落第や退学の率が減少した。しかし財政難などで打ち切られた。フィンランドでは今年から2000人を対象に試験的に導入。オランダ、カナダでも導入が検討されている。
ベーシック・インカムが再注目されている背景には、作業の機械化が進み、雇用の減少予測がある。製造業の工程の機械化や、レジや窓口のセルフサービス化で実際にリストラが起こっており、フランスで150万~340万人の雇用が消滅するという見込みもある。改善の見通しが立たない失業率を前に、国民の生活を保障する策として関心が高まっているのだ。1月13日付のリベラシオン紙は「無為な時間を皆に?」という見出しで1面に取り上げた。
アモン候補は、1月22日の左派統一候補者選挙の第1回投票で、最も高い得票率36%を得て、29日の第2回投票に進出した。「ばらまき」公約で票を集めたとも見えるが、ベーシック・インカムが、大統領選の一つの争点となる可能性もある。(重)