「モティヴェ! モティヴェ!…」この勇ましいリフレインは元歌にはなかった。トゥールーズのバンド、ゼブダのメンバー(マジッド・シェルフィ、ムスターファとハキムのアモクラン兄弟)が第2次大戦時のレジスタンスの歌「パルチザンの歌」(1941年ジョゼフ・ケッセル/モーリス・ドリュオン作。友よ、祖国の平原の上を行く黒々としたカラスの群れの飛ぶ音が聞こえるか?)に、「やる気を出そう!(モティヴェ!)、やる気を持ち続けよう!」という創作のリフレイン部を加えた。録音にあたり承諾を求められた作者ジョゼフ・ケッセルはこれを快諾したという。
時は1997年、すでに10年以上前からトゥールーズのローカルバンドとして、マグレブ系移民二世たちの社会同化など地域住民運動に積極的にコミットした活動をしてきたゼブダは、まだ 「トンベ ・ ラ ・ シュミーズ」(1999年夏のメガヒット)による全国的知名度はなかったが、地方ではパワーがあった。全国的には任期まだ2年目の大統領シラクが自信過剰の国会解散をし、続く総選挙で左派に敗れるという激震があり、ゴーシュ・プリュリエル(エコロジストを含む複数の左派政党による連立政府)が元気だった。しかしトゥールーズでは既成政党にもはや期待せず民衆の手に地方政治を取り戻そうとする市民運動が、このゼブダの周辺から発生してくる。ゼブダはこの運動の活動資金を調達すべく、CDアルバムを制作し、資金集めのコンサートを開いた。この時ゼブダは中央のメジャーレコード会社と契約していたため、この活動にゼブダの名前を使用することができず、ゼブダオリジナルの曲も入れられなかった。そこで彼らは運動を鼓舞するにふさわしい世界の革命歌と抵抗歌のカヴァーだけでCDアルバムを作った。アルバムタイトルは『モティヴェ!(Motivés!)』。「アスタ・シエンプレ」(キューバ)、「アイ・カルメラ」(スペイン)、「ベラ・チャオ」(イタリア)、「ラ・クカラーチャ」(メキシコ)、「さくらんぼの実る頃」(フランス)など11曲の抵抗歌のアルバムの第1曲目に入れたのが「パルチザンの歌」だった。
「モティヴェ! モティヴェ!」。商業FMのボイコットにめげず、この歌はコミュニティーFMの支援を受けて全国的に拡がり、アルバムは好調に売れ、その資金を得たトゥールーズの市民団体「レ・モティヴェ」は2001年の市議会選挙で 12,49%の票を得て、かなりな数の会議員の議席を獲得する。またこの「パルチザンの歌」は以後ゼブダのコンサートに欠かせないレパートリーになっただけでなく、全国のさまざまな運動闘争の集会やデモ行進で気勢を上げる歌の定番となるのである。
あれからちょうど20年後の2017年、レ・モティヴェは還ってきた。ゼブダのムスターファとハキムのアモクラン兄弟を中心に、トゥールーズの有志ミュージシャンたちで編成されたバンド、レ・モティヴェはこの1月から全国ツアーを開始している。そして2月3日には『モティヴェ! 2017』と題されたCDアルバムも発表した。このアルバムは1997年版の歴史的アルバムの11曲に加えて、みな素晴らしい新録音の抵抗歌カヴァー4曲:「ア・ルータ・コンティヌア」(ミリアム・マケバ)、「黄金時代」(レオ・フェレ)、「ポリス・オン・マイ・バック」(エディー・グラント/クラッシュ)、「サブラ・ウ・シャティラ」(ナス・エル・ギワン)、そしてかの「パルチザンの歌」の2017年リミックス。同じ握りこぶしのジャケットだが、2017年版はアルバムの副題に
Y’a toujours pas d’arrangement !
(まだ何も解決していない!)
とある。やる気をもって(すなわちモティヴェのままで)闘いを続けなければならない。2017年に彼らが還ってきたのには大きな理由がある。2017年の緊急の問題は言うまでもなくフランス大統領選挙である。何をしなければならないのか。
2012年の選挙は、多くの人たちにとってオランドを当選させるための選挙ではなく、サルコジを再選させないための選挙だった。落とす選挙。2017年、状況はずいぶん変わったとはいえ、もう一度落とすための選挙が必要なのではないか。すなわち極右候補者の初当選を阻止するための選挙が。積極的にある候補に託したいという人たちに幸あれ。しかしそうでない人たちは、これだけは避けねばという点でモティヴェであってほしい。壁を築かない共和国であり続けるために。
(リフレイン)
Motivés, motivés
Il faut rester motivés
Motivés, motivés
Il faut se motiver
ムスターファとハキムのアモクラン兄弟とレ・モティヴェは3月21日、パリのフェスティヴァル 「マジック・バルベス」でコンサート。他、現在フランス全土ツアー中。
文・向風三郎
