Ana Bergerさん
インドで作られる、模様をプリントした木綿布 「更紗 (さらさ) 」は、1664年にコルベールが創設したフランス東インド会社によってフランスにもたらされた。色鮮やかな草花や動物が描かれた布はアンディエンヌ(les indiennes)と呼ばれ、その人気たるや、ウールや麻などフランスの布の生産者を保護するために輸入や生産が禁止されたほどだった。更紗が解禁となるとヴェルサイユ近郊、ジュイ・アン・ジョザスに1760年、更紗工場が作られ 「ジュイ更紗」が誕生。インド更紗の模様をフランス風にデザインし、多様な布を生産した後、1843年に閉鎖した。町の城館内に設けられた「ジュイの布美術館」が、今もその歴史を伝えている。
更紗はインドから東方へも旅をした。日本にはヨーロッパよりも早く、16世紀に琉球王国の島々を通じてもたらされた。フランスと同様に木の枝に戯れる鳥、あやめ、赤い花などの布が好まれ作られたが、土地が違えば同じ花でも表情は違ってくる。今、ジュイの布美術館では、そんな日本の布や着物と、ジュイ更紗が並べて展示されている。藍染めの植物柄、江戸小紋とジュイで作られた小柄の模様など、同じテーマで作られた日本とジュイの布。何世紀も会わなかったインド更紗の日仏の末裔たちが集い、対話する。
この展覧会を監修し、布を提供しているのはテキスタイル研究家のアナ・ベルジェさん。彼女のコレクションは、北は北海道のアイヌの伝統衣装から、旧琉球王国の島々の布、現代作家のテキスタイル作品までほぼ5000点からなる。「蒐集家」だが、自称voyageuse glaneuse textile(旅と採集する人)。可能な限り布作りの現場に赴き、植物から繊維をとりだし糸を績(う)み、染め、織る工程を自ら実践するからだ。そんな「採集」の旅を重ねて12年。絹、木綿、芭蕉、苧麻 (ちょま)、大麻、紙布(しふ)、藤、科、アイヌ民族が伝統衣装に使うオヒョウなど豊富な繊維の種類、修験者の羽織、袈裟、陣羽織、のれん、大正ロマンの代名詞のような銘仙の着物…。ベルジェさんのスイス国境に近い山中の木造の大きな家は、作られた時代、用途も多岐にわたる布でいっぱいだ。
ベルジェさんが特に好きなのは、宮古、多良間、西表など沖縄の島で、バナナの繊維から作られる芭蕉布。「伝統的な製法で着物一着分の布を作るのには、3年くらいかかることもあります。政府の援助があっても額は少なく、援助がない人がほとんどです。簡素な生活をしながらも、大好きな布作りに打ち込む職人さんたちは、時間よりも出来あがった布の完璧さこそを大切にしています。そういう人たちに、本当に大きな敬意を抱いています。島の布職人の半数は、今、本土の都市部から移住してきた女性。自然と共生しながら島のおばあちゃんたちに布づくりを習い、伝統の継承に参加し、若い人たちに伝えています。布作りの伝統は、今も生きています」。
画家のハンス・ベルジェを祖父に持ちジュネーブに生まれたベルジェさんは、小さい頃から着物をまとう女性が描かれた絵画に囲まれて育った。日本へ行く前からキモノを作り、着ていたという。美術、ファッションデザインなどをジュネーヴ、ミラノ、パリで勉強した後、舞台衣装の制作、アート・ギャラリーを開いた。今は、2020年に出版予定の日本のテキスタイル集大成の本、来年、ライオンをシンボルとするヴェネチアで開催する、獅子がテーマの日本のテキスタイル展と、同じくヴェネチアの繊維会社で開く展覧会の準備を進めている。日本の研究者や蒐集家の交流のなかで、日本でコレクションを見せることを勧められている。「それが私の夢です」。日本の布に情熱を捧げるベルジェさんの旅は、これからも続く。(美)
アナさんのコレクション : www.facebook.com/profile.php?id=100008282430316
■ Japon & Jouy,
dialogues entre Sarasa et Indiennes
《日本とジュイ-更紗とアンディエンヌの対話》
2019年1月19日 (土)まで
Musée de la toile de Jouy
Adresse : 54 rue Charles de Gaulle, 78350 Jouy-en-JosasURL : www.museedelatoiledejouy.fr/fr/accueil/