サビーヌ・マフルさん
ランス市立カーネギー図書館・上級司書
シャンパンと大聖堂で有名なランス市は、第一次大戦で市街地の8割以上を破壊された。米国の実業家で篤志家のカーネギー(カーネギーホールの)は、ロシアと欧州3カ国再建のために50万ドルを義援、そのうち20万ドルを新しい図書館を建造するための費用としてランス市に寄付した。こうして1928年「カーネギー図書館」がランス市に開館。アール・デコの秀作と評される建物の意匠美が、訪れる人の心を打つ。
その図書館で、エコール・ド・パリの画家、藤田嗣治(ふじた・つぐはる/レオナール・フジタ)が挿絵を制作した、希少本蒐集が進められていると聞き、担当者のサビーヌ・マフルさんに会いに行った。サビーヌさんは上級司書。カーネギーは誰もが利用できる市立図書館だが、重要文化財を有する「指定市立図書館」として国が認定しているため、文化省から司書が配属されるのだ。このような指定市立図書館は全国に54カ所ある。
「フジタは多作な人でした。57冊の本の挿絵を手がけたのですから。そのうちの45冊が集まりました」。目標は、来秋開催するフジタの挿絵に焦点を当てた展覧会までに、57冊をすべて入手することだ。
フジタは、ここランスで洗礼を受けキリスト教に改宗、礼拝堂を建立し、亡骸はその中に眠る。とはいえ、いくら町と縁が深い芸術家でも、黙っていては希少本は集まらない。古書店のカタログやネットの競売情報に目を通しアラートをかけ、古書店から入荷の際は連絡をもらえるようにし、さらに文化省が情報の網を張る。去年は、フジタ作品収蔵数で世界最多を誇るランス市美術館からの情報によって「最高傑作といわれ、入手困難な 『La rivière enchantée 』(1951)をドゥルオーの競売で42500ユーロで落札しました」。年頭は予算に余裕があるから買いやすく、年末は難しいなど事情もあるそうだが、熱意を持った司書のもと1990年前後から着々と蒐集が進められてきた。
「個人的に好きなのは、ジャン・コクトーの文章と、25枚のフジタのビュラン銅版画が収められた『海の龍』。線描写を最小限に抑えた、洗練された版画です。フジタは銅版画のいくつもの技術を使いこなしただけでなく、全工程を自分でやっていました」。2012年にはフジタ自身が彫った木版つきで木版挿絵本を入手。本を準備する過程が見られる貴重な資料だ。
同図書館は中世手稿本の蔵書でも名高い。ランスの町の歴史、所縁ある作家、アール・デコなどのテーマでも蒐集を進める。ニューヨークの競売に足を運ぶこともあるそうだ。
サビーヌさんにとって蔵書は成長する生きもの。「ネットや展覧会を通じて、ランスの文化遺産が豊かになっていることを町の人に知ってほしい」と、愛書家独特の熱く光る目で語る。
来年、ランス美術館には240平米のフジタ展示室が完成するほか、パリでもフジタ展が予定されている。(六)
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