戦後昭和の日本、パリ市庁舎に。

Koji Inoue

井上孝治。@Hajime Inoue

『井上孝治 – 表象を超えた写真家』 ほか上映会。
 
 写真家・井上孝治(1919-1993)の軌跡をたどるドキュメンタリー2作品が、24日の晩、パリ市庁舎で上映される。井上は、アマチュアとして戦前から写真を始め、カメラ店を営みながら地元福岡のこども、人々、風景を撮影した。アマチュアとはいえ、米占領下の沖縄や、まだ戦禍もあらわな長崎、炭鉱都市・軍艦島へも遠征し、そこに暮らす人々の生き生きとした姿をカメラに収め、現在では貴重な史料ともなっている。
 
井上の作品が脚光を浴びるようになったのは、福岡の百貨店〈岩田屋〉が、井上の写真を広告に使った1989年以降。井上がたくさん撮った昭和30年頃の福岡市の町の光景だった。90年にはパリ写真月間で展示、93年のアルル国際写真フェスティバルには招待写真家として来仏する予定だったが、渡航直前に肺がんで74歳で亡くなった。『想い出の街』『こどものいた街』『あの頃』などの写真集が出版されている。
 
3歳の時に階段から落ちたことが原因で失聴、言葉も失った井上は、その聾啞(ろうあ)ゆえ写真学校に行けなかった。井上は日本初の「全日本聾唖写真連盟」を設立、初代会長も務めた。
 
今回上映される2作品を制作したのは、フランス人の映像作家ブリジット・ルメーヌさん。1993年に、アルル国際写真フェスティバルで初めて井上の写真を観て、それまで見たことのなかった日本像に驚き、イタリアのネオレアリズモ映画のように現実を映しだす井上の視点に打たれた。アルルのフェスティバルの招待写真家として企画されたその展覧会は、死を目前にした井上自らが準備した「遺書のようなもの」、生涯の作品の集大成だ。ブリジットさんはそこに「無声映画のような美しさ」を見出し、健聴者とは違った撮り方を感じた。聾唖の祖父母に育てられた彼女は、井上と共有する言語があると感じ、映画製作に着手。日本では、そんな彼女を紹介する番組もテレビで放映された。

brigitte lemaine

ブリジット・ルメーヌさん。ナシオン広場のカフェで。


ブリジットさんは他にも、聾唖をテーマに映画を製作し、上映と講演でフランス各地、外国の映画祭などを回る。「フランスでは1880年から1992年まで手話が禁止されたため、識字率が40%まで落ち込み、聾者の社会参画を難しくしました。今でも聾者の失業率は60%。改善することはたくさんある」。
 
3歳のころから、聾唖の祖父母と暮らすうちに、いつの間にか手話が身につき、祖父母の行政手続の際は役所に同伴し、手話通訳をした。聾者が自分を取り囲む健聴者の世界と話しをするには通訳者が必要だが、まだ不足している。
上映後の質疑応答では、自ら手話通訳を務め、聾者にも参加してもらう。
 
【上映情報】
6月24日(金)18h30 から 21h30
パリ市庁舎内視聴覚室
Auditorium de la Mairie de Paris :
5 rue Lobau 4e(市庁舎前の広場と反対側)
 
上映作品
”Regardez-moi, je vous regarde, Koji Inoue photographe sourd” (1996年 19分)
『私を見てください。私もあなたを見ます。聾者の写真家井上孝治』
”Koji Inoue, photographe au delà des signes” (1998年 64分)
『井上孝治──表象を超えた写真家』


Mairie de Paris

Adresse : 5 rue Lobau, 75004 Paris , France
アクセス : Hôtel de Ville