焼き立てのバゲットパンbaguetteを買ってきて、切りひらき、ナイフでバターを塗るとおいしい音がする。それが朝の空気やコーヒーの香りとひとつになれば、もう十分すぎる幸せ……。
アントレからチーズまで食卓に欠かせないバゲットだが、時間がたつにつれて皮が固くなったり、身がちぢんだりで、おいしくなくなるのが欠点だ。そこでフランス人は食事の前とかに、かなりこまめにパン屋で列をつくっている。それも、「あなた、もうすぐお昼よ。バゲット買ってきて!」と頼まれたのか、男の人も多い。以前は、細めのフィセルficelleとか麦の穂を思わせる形のエピépiとか太めのパンpainとかがあったのだが、見かけなくなってきた。かわりに昔ながらのバゲットbaguette traditionと呼ばれる、精白しすぎてない小麦粉を使い、添加物をおさえたバゲットがふえてきたのは、うれしいことだ。ふつうのバゲットより小柄で太め、皮がカリッと焼き上がって歯ざわりよく、割ってみると小麦粉のいい香り…。こんなパンでつくったサンドイッチはかみ心地もよく、思わず「うまい!」。カマンベールやサンネクテールなどのチーズによく合う。残ったら布巾などで包んでおき、翌日二つに切り分けてからトーストしても、まだまだのうまさだ。
全粒粉入りで、丸い形が多い田舎パンpain de campagneというパンもある。どんな料理にも合うし、バゲットよりもちがいい。薄く切ってからトーストしよう。
日本風の食パンはパン・ド・ミpain de mieと呼ばれ、パン屋でもつくっているが、スーパーでも簡単に手に入る。精白された小麦粉を使って身が真っ白なものと、全粒粉も使った褐色がかったものとがある。残ったら、包装に戻し、空気が入らないようにして保存する。キュウリやゆで卵、ハムなどをはさめば、このパンの柔らかな風味とかみ心地が生きるクラブサンドイッチ。フォワグラに、このパンを軽くトーストしてから三角形に切り分けて添えるのも定番だ。ほとんどどこのキャフェでもつくってくれるクロック・ムッシューにもパン・ド・ミが欠かせない。バターをぬったパン2枚の間にハムをはさみ、グリュイエールチーズなどをたっぷりのせてオーブンできれいな焼き色がつくまで焼く。サラダを添えれば軽い食事になる。
褐色のライ麦パンpain de seigleといえば、生ガキに、バターといっしょに添えられることが多い。味わい深いパンだから、カキの塩味にも負けることがない。スモークサーモン、豚肉のテリーヌ、ロックフォールなどのブルーチーズとの相性も抜群だ。
穀類入りパンpain aux céréalesというのもある。小麦、大麦、ライ麦などの粒を身に加え、表面にも散らしてある。歯ざわりもよく、香りもいいので、ミックスサラダなどにお供させたい。(真)
Pain au levain
パン・オ・ルヴァンというのは、イーストではなく、天然酵母で自然発酵させた生地で焼いたパンのことで、パリのポワラーヌやガナショ*というパン屋がパイオニアだ。しっとりとしたかみ心地、そして軽い酸味が独特の風味になっている。ポワラーヌのパンはスーパーでも手に入るだろう。ソーシソンや生ハム、ガチョウやカモのリエット、イワシやサバのリエット、さまざまな肉料理、あるいはカンタルやロックフォールなどのチーズに添えたい。
*GanachaudはGANAという店名になり、フランチャイズの店も増え、パリ各所に10軒以上ある。
Club sandwich
クラブサンドイッチというと、ロンドン郊外のテニスクラブの広々としたラウンジで供されるもの、といったイメージがある。はさまれる中身というと、まずBLT(ベーコン+レタス+トマト)、チェダーチーズとピクルス、スモークサーモンとキュウリ、ゆで卵とアンチョビーなどが代表的だ。
食パンに、バターときにはマスタードをぬってからはさむ。丁寧に準備されたものは、切り口も美しいし、上品なうまさ。しかし、これでは労働者の胃袋は満たされない。フランスのカフェのカウンターでの一番人気は相変わらず「Un jambon-beurre」。バゲットパンにバターをたっぷりぬり、ハムをはさんだものだ。
Viennoiserie
折り込みパイ生地を巻きこんで三日月に近い形にして焼いたクロワッサンcroissant、やはり折り込みパイ生地の真ん中にチョコレートを入れて焼いたチョコレートパンpain au chocolat、干しブドウとカスタードクリーム入りのブドウパンpain aux raisins、卵とバターをたっぷり加えた生地で焼いたブリオッシュbriocheなどは、タルトやプディングと区別されてviennoiserie(ウイーン風パン)と呼ばれている。折り込みパイ生地を使ったものは、やはりバターの量が決め手。サクサクっと歯にあたるとくずれてしまうようなクロワッサンは絶品だ。