ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館が所蔵する着物、装飾品、浮世絵など200点を展示し、江戸時代から現代に至る着物の変遷をたどる展覧会。江戸時代の小袖から、花魁の着物、和洋折衷の輸出用着物、アレクサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノら外国人デザイナーが着物からインスピレーションを得て創作した衣装、現代日本人デザイナーの着物まで、着物そのものだけでなく、着物もどきもあり、「和服」に限らない着物の可能性を存分に見せてくれる。
工芸デザインに強いヴィクトリア&アルバート博物館が企画しただけに、着物の構成や着方にはほとんど触れず、染織や図柄、着物をもとにしたデザインに重点が置かれている。
特に興味深いのは、欧州と日本の交易で生まれた着物である。スコットランドの政治家が所有していたと言われる、江戸時代に作られた部屋着は、水色と朱のコントラストが強烈で、なぜか紋章が肩についている(写真上左)。同じ布のサッシュでウェストを締めた、20世紀初頭の輸出用の着物は、現代の創作と言っても不思議ではないモダンな夜会服だ(右)。19世紀半ばに英国かフランスで作られた花柄の布を使って日本で縫われた男性用襦袢(下の写真)は、今のジェンダーフリーを思わせる斬新なものだ。大正時代には、西洋の影響でアールデコの図柄の銘仙が作られた。
普段着だった着物は戦後、おしゃれ着や礼装となり、着る人も着る機会も減ったが、現代のデザイナーが伝統にこだわらないモチーフや使い方で蘇らせている。ナイジェリ出身のデザイナー、ドゥロ・オロウは着物と自国の衣装のスタイルをミックスしたドレスを作った。クイーンのフレディ・マーキュリーが来日中に購入し、愛用していた刺繍入りの縮緬の着物は繊細で美しく、ファンにとっては見逃せない。ジェンダーフリーの着方の一つの例だ。
日本の着物作家・デザイナーでは、山本寛斎によるデヴィッド・ボウィの舞台衣装、人間国宝・森口邦彦の抽象幾何学模様の着物などが出ている。デジタル染色した円と直線のユニセックスの着物をデザインする高橋理子は、自作の着物を着て本展のポスターになった。
着物は前の世代の日本人デザイナーにとって、海外で発表する時のアイデンティティの拠りどころだったかもしれないが、今の若いデザイナー・アーティストはその縛りから解き放たれて、「身に纏うもの」の一つとして、より自由な発想で創作しているように感じられる。(羽)
Musée du quai Branly - Jacques Chirac Nous suivre :
Adresse : 37 quai Branly 75007, 75007 Paris , FranceTEL : 01 56 61 70 00
アクセス : RER-C線 Pont de l'Alma駅 / Alma-Marceau (9)、
URL : https://www.quaibranly.fr/fr/
12€ / 9€, 月休。火〜日:10h30 à 19h(木曜 -22h)