いつの間にか、私たちはすっ”かり「使い捨て」に慣れてしまった。この数十年間で、使ったものを洗ったり直したりするよりも、捨てることで手間と時間を”稼ぐ”ようになった。しかし人類が地球の資源を採取・生産・消費するペースは、自然が回復するペースを上回っている。
と、ここまでは耳が痛いが、日々耳にする警鐘ともいえる。ラ・ヴィレット科学産業博物館で始まった「貴重なるゴミ」展は、ゴミを再活用するのはもちろんだが、優れたデザインの良品に変身させることで、直線的(資源を使い捨てる)経済モデルから、循環経済をかなえることを提唱する。
当館のキュレーターがロンドンのデザイン・ミュージアムの企画展を見て気に入り、その展覧会をベースにフランスでの開催用にアレンジ。展示に使われているテーブル、壁などもほぼすべてが再利用のもので、展示終了後はさらに再利用される。もはやコンピューターの画面をみだりに使ったりもしない。「デジタルこそ未来」「テクノローが環境を救う」というような「まやかし」は、当館ではもう通用しないのだ。
まずは現状把握から。軽く形成しやすく、防水性、耐久性が高く、洗えて衛生的で安価なプラスチックは日常生活に浸透した。しかしそれらの多くが捨てられ、今やプラスチックゴミ大陸ができ、海水中にもプラスチック粒子が増え、魚までが汚染されている。砂浜にも小石のようにみえるが、実は潮の動きで形作られたプラスチック製「小石」が転がる。家電メーカーは一定の期間で製品が壊れるよう「寿命」をプログラムし、消費者は壊れたら新しいものを安く買うよう仕向けられてきた(現在はフランスでは違法)。産業革命から今日まで、人類がどれだけ自然から資源を搾取し、環境を汚染してきたかを示す年表もある。
しかし「使わなくなった」と思われるものでも、いいデザインでアップサイクリングした例が紹介されるのがこの展覧会。見ならが進んでいくとアディダスやステラ・マッカートニーなど人気ブランドの植物性繊維を使ったドレスやコート、買物袋や包装などでも微生物の働きによって分子レベルまで生分解されるポリマーを使ったもの、フランス企業が開発した、プラスチック再利用の家具、カキの貝殻の破片を使った建材、とうもろこしの皮やヒゲを使った建材や家具、ペンキも海藻を使ったものなど。コルクを建材にして家を作れば防音・防寒などができる”温故知新”的な例もある。
フランスの高度経済成長期に多く造られた集合住宅は、近年、暴動などが起こると、都市計画の失策の象徴のようにされ、ダイナマイトで爆破され、そこにゼロから新しく建て直すことが行われてきた。それに異議を呈する建築家アンヌ・ラカトンとジャン=ピエール・ヴァッサルが、集合住宅でも壊さずリフォームし、外界に開かれた快適な住宅を実現した例が紹介されている(Lacaton &Vassal 2021年にプリツカー賞受賞)。今、住宅難が言われているが、資源もカネも効率的に使うべきなのだ。それによってそこで生活していた人々の記憶をも大切にすることができる。
エコロジーを批判する人々、または環境問題に目をつぶって今までどおりの消費・経済活動をしたがる人々は、「écologie punitive 生活を悪化させる(不便にする)エコロジー」、「ろうそくでの生活には戻れない」などと言う。そんなことを言っている場合ではないのを知りながら。アイデアとセンスと知性を持って、視線のチャンネルを切り替え、これからの生産と消費を考えるエネルギーを与えてくれるような、有益な展覧会だ。(六)
Cité des sciences et de l’industrie
Adresse : 30, avenue Corentin-Carou , 75019 Paris , FranceTEL : 01 85 53 99 74
アクセス : Métro : Porte de la Villette / Tram : Porte de la Villette 3b
URL : https://www.cite-sciences.fr/fr/au-programme/expos-temporaires/precieux-dechets
13€/10€、火〜土10h-18h、日-19h。