シェーンベルクを「文楽」で。
ジャン=フィリップ・デルソーさん 演出家・人形遣い
初演の1912年から、常に芸術家たちを刺激してきたシェーンベルクの名歌曲『月に憑かれたピエロ』(以下ピエロ)。今月はアテネ劇場で、文楽の演出で楽しむことができる。
三百年来の古典芸能・文楽と、20世紀初頭のウィーンで作曲された前衛歌曲。一見、異質なものだが、実は接点があるという。
演出家ジャン=フィリップ・デルソーさんによると「文楽は太夫と音楽、人形の三業で構成されますが、『ピエロ』も歌手がひとりで情景や人物の感情を語り分けます。太夫の語り方も「シュプレヒシュティンメ」と呼ばれる、語りつつ歌う『ピエロ』の表現方法に通じるものがある。そして『ピエロ』初演当時のウィーンが、1873年のウィーン万博で日本文化が紹介された後に興った、ジャポニズムの渦中にあったという文化的背景もあります」。
チェコ、イタリア、フランスで様々な形態の人形劇を学んだデルソーさんは、音楽との共演が多いがバロック音楽との縁は特に深く、18世紀に書かれた人形劇オペラ公演は日本でも紹介されている。2008年、パリで3代目吉田簑助の舞台を観たのが、文楽との出会いだった。
「文楽では善人・悪人・未婚女性…と登場人物が類型的に描かれます。イタリアのコメディア・デラルテも同じ。勧善懲悪のお約束のキャラクターの振る舞いに、誰もが共鳴する。『ピエロ』はアルベール・ジローの21篇の詩にシェーンベルクが曲をつけたものですが、その詩を読み、文楽で表現できると思いました」。
ムジカ・ニゲラ楽団の音楽監督・根本雄伯氏に相談すると、根本氏もかねてから『ピエロ』の上演を望んでいたということで意気投合し、この公演につながった。
デルソー版『ピエロ』の舞台は、江戸の花街。詩人ピエロは惚れた芸妓コロンビーヌに駆け落ちを請うも、茶屋を離れられないコロンビーヌは元締めカッサンドル爺と結婚させられそうになり自害。ピエロは憎きカッサンドルに復讐する、という文楽でいう「世話物」仕立て。このドラマを始終照らす月は、その光でピエロの罪を贖い、ピエロは故郷イタリアへと帰ってゆく…。
この公演では、観客席から見やすいように人形を大きめにし、登場人物4人を人形遣い4人で演じるため、人形1体を2人で操れる調整も施した。
「自分の舞台を『これが文楽だ』と謳うつもりは毛頭ありません。文楽は修行に長年を要するし、自分の日本に関する知識も限られていますから。文楽をひとつの表現方法として拝借したのです」。熟知すれば想像力が弱まる。知らない部分は想像し、創りだす。シェーンベルクが異質なものを相反させ融合させて『ピエロ』を作曲したように、フランス人形芝居の第一人者、デルソーさんによって、今までにはなかった『ピエロ』と文楽の世界が創られ、劇場を包み込むのだろう。(六)
***初日、3月24日の舞台に、2名さま10組を、特別ご招待します。観劇を希望されるおふたりのフルネームをお書きになり、monovni@ovninavi.comへ、ご応募ください(〆切3月22日)。
Athénée Théâtre Louis-Jouvetにて 3/24〜31まで6公演。
指揮:根本雄伯
演奏:Ensemble Musica Nigella
予約:01 53 05 19 19 www.athenee-theatre.com/
Athénée Théâtre Louis-Jouvet
Adresse : 7 rue Boudreau - 75009 Paris, 75009 Paris , FranceTEL : 01 53 05 19 19
アクセス : Opéra, Havre-Caumartin
URL : www.athenee-theatre.com/