ラファエル・バロンティーニによるインスタレーション「We could be heroes」
パンテオンは圧倒的な建物だ。フランスの名士たちが祀られ、フーコーの振り子が中央に鎮座していたりもする。フランス共和国の理念と英知が宿っている場所だ。そのパンテオン内で展覧会が始まった。
招待されたアーティストは1984年生まれ、セーヌ・サン・ドニ県をベースに活動するラファエル・バロンティーニ。彼は歴史、特に植民地、奴隷制とその抵抗運動をテーマにしていて、今回の「We could be heroes」も、奴隷制廃止のために闘った有名・無名の英雄たちを、布のコラージュで肖像やタブローにし、大きなパンテオンの空間に配置した。
身廊の左右には下げ旗がならぶ(写真下)。それらの旗には、ハイチの独立運動の英雄サニテ・べレール(1781-1802)、マルティニークとグアドループで奴隷制度復活に抵抗したルイ・デルグレス(1766-1802)、セネガル生まれで2歳でサン・ドマング(現ハイチ)奴隷として売られたがフランス革命に参加、国民議会議員となった”初の黒人”ジャン=バティスト・ベレー(Jean-Baptiste Belley)らの肖像が描かれている。胸を張った英雄然とした姿で色も鮮やかだ。
中央に進むと左右には幅20メートルの大作がある。アフリカの土地から”商品”として拉致され知らない土地のプランテーションで労働を強いられた人々の姿を描いた「La Traversée」、「Le Marron」は奴属の状態から逃げ出した人を意味するが、その逃げる行為こそが抵抗運動のひとつであるとして讃えた作品。ハイチの独立派がナポレオン軍に勝利し独立を勝ちとったヴェルチエールの戦い(1803年)が描かれた作品もある(冒頭の写真)。
パンテオンにはすでに、奴隷制の廃止を推し進めたグレゴワール神父(1750 – 1831)、ハイチの独立運動指導者トゥーサン・ルーヴェルチュール(1743-1803)、グアドループで奴隷制度の復活に対して抵抗したルイ・デルグレス(1766-1802)、ヴィクトル・ショルシェールらが、祀られている。展示初日はアンティーユ諸島のカーニバル音楽の演奏とともに、バロンティーニの作品の持ち旗が掲げられての行進となった(画像下)。アーチストが描いた多くのヒーローたちをも、この偉人廟に祀るセレモニーのようだった。
人気観光地のひとつで、何もしなくても安泰であろうモニュメントでのアート展。これは国立歴史的建造物センター(CMN Centre des Monuments Nationaux)が推進する “Un monument, un artiste(ひとつのモニュメントに、アーティストひとり)” プログラムの一環。CMNはフランス全土の国の歴史的建造物を管理運営しているが、そこで、今活躍するアーティストを招いて、その場とその場所が象徴するもの、歴史などと呼応する作品展開催を委託する。昨今では、ル・コルビュジエ設計のサヴォア邸でペトロヴィッチ展(絵画と彫刻)が開催されたのも新鮮だった。We could be heroes 展は、2024年2月11日まで。
Performance « We could be heroes »
2月3日(土)15h30から、パンテオン内でパフォーマンス。
バロンティーニの作品を掲げた人々の行進、ダンス、40人のミュージシャンで構成されるアンティーユ音楽隊「Mas antillais Choukaj」が、奴隷制度に反対した人、廃止に貢献した人々を讃える40分間。2月11日で終了しますが、もうこの一回限りです。
「Oser la Liberté / Figures des combats contre l’esclavage」展も地下で開催中。同じく2/11まで。
Panthéon
Adresse : Place du Panthéon, 75005 Paris , FranceTEL : 01 44 32 18 00
アクセス : Luxembourg (RER-B)/ Cardinal Lemoine (Ligne10)/Maubert - Mutualité(Ligne
URL : https://www.paris-pantheon.fr/
10月は 10h-18h30、11月〜2月までは : 10h-18h。入館料:11.50 €