パリ12区のポルト・ドレ宮にある移民史博物館が3年を費やした工事を経て常設展会場を改変し、6月半ばに再オープンしたと聞いて、行ってみた。
ポルト・ドレ宮は、当時の植民地帝国フランスの威厳を誇示する1931年の国際植民地博覧会(940号参照)のために建設された。アルベール・ラプラードが当時流行のアール・デコ様式で設計した威風ある建築物だ。アルフレッド・ジャニオ作のファサードの浅浮き彫り(高さ13m×長さ90m)は圧巻だ。右側からはアジア、カリブ海の植民地の産物が、左側からはアフリカとオセアニアの植民地の産物が、中央のフランスを表す人物に向かう様子が現地の人々や動物とともに描かれており、植民地がフランスに豊富な産物をもたらすことを象徴的に表現している。
モロッコ建築を模した「祝宴の間」(現「フォーラム」)は、逆にフランスが植民地にもたらす文明(芸術、平和、自由、公正、労働、商業、産業、科学)を象徴する計600㎡の壁画が3面を覆う。
入口ホールの左右には当時のポール・レノー植民地相とリオテ元帥(植民地博の責任者)の名前を冠した貴賓室が、やはりアジアとアフリカを象徴する壁画とアール・デコのインテリアや調度で飾られ、まさに1935年までの名称である植民地博物館を体現する。35年に海外領土博物館、60年にはアフリカ・オセアニア美術館になり、2007年に移民史博物館となった。
しかし、移民の同化に焦点を当てた常設展には批判も多く、見直しが検討されていた。そのため、2017年に依頼された、歴史家パトリック・ブシュロン氏率いる学者50人による報告書をもとにした常設展の再編計画がスタートした。コンスタンス・リヴィエール館長は最近の移民史の研究成果も生かして客観的視点から移民史をたどることを目指したという。以前の展示は19世紀から始まっていたが、新展示では17世紀から年代を追ったより史実に沿ったものとなり、展示面積も800㎡から1800㎡に大幅に増えた。
展示は、植民地での奴隷の扱いを規定した「黒人法典」が制定された1685年から始まる。仏革命の1789年、2月革命の1848年、生地主義が確立された1889年、第1次大戦中の1917年、植民地博の1931年、第2次大戦中の1940年、植民地を失った1962年、移民規制を強化した1973年、人種差別反対運動が高まった1983年、シェンゲン協定の1995年、そして現代と、11の年号をカギにフランス人の国外移民、フランスへの移民の歴史が6000点近い文書、オブジェ、写真、映像、アート作品などによって説明・表現されている。
こうして歴史をたどってみると、現代ではフランスへの移民ばかりが議論になっているが、実際には革命や戦争、宗教や経済的理由で国外へ脱出したフランス人も多いことがわかる。フランスへの移民も、アンティル諸島に奴隷として売られたアフリカ人、労働力確保のために各地に集められたクーリーのアジア人、戦争や革命、独裁政権、貧困から逃れてきたヨーロッパ人、旧植民地からの労働移民など多種多様であることがわかる。外国人の身分規定もその時代の要請(戦争、労働力不足、経済危機など)により緩くなったり厳しくなったりする。
仏革命とナポレオン法典により生地主義が生まれたが、それも時代により条件が変わった。1980年代頃からは移民の人権擁護と人種差別反対運動が起こり、1989年頃からは移民や移民2世への警察の暴力を訴える証言もあり、移民はその時代時代の政治を映し出す鏡だという気がする。当時の関連ニュースを見られるコーナー、現代世界の様々な移民・難民問題を解説する映写コーナーなど視覚的な工夫、移民を扱う現代アート作品なども配置されており、見ごたえのある展示だ。休みながらゆっくりと見学することをお勧めしたい。
フランス人の3分の1から4分の1が1~2世代さかのぼると移民であることから、フランスは移民の国だと言えよう。その歴史をきちんと踏まえることで、秋に国会で審議される新たな移民規制法はデマゴーグに陥らずに冷静な議論がされることを望みたい。(し)
→La terrasse ”Poisson Lune”
ポルト・ドレ宮入口前に、フードトラック、バーのテラス。子供の遊び場も(10/1まで営業)。
火-日16h-0h、土日12h-0h。
→10月8日から、1960年以降のアジア人移民に関する展示と、在仏中国人アーティスト10人の作品展、2つの企画展あり。
Musée national de l’histoire de l’immigration
Adresse : 293, avenue Daumesnil, www.palais-portedoree.fr , Franceアクセス : Porte Dorée
URL : https://www.histoire-immigration.fr/
火-日:10h-17h30(土日-19h)。10€/7€ 水族館10€/7€。両方14€/11€ 週末は予約推奨。常設展、建築、歴史をテーマにした各種ガイド付見学(14€)