Les Choses – Une histoire de la nature morte
オーソドックスな展示で見せることが多いルーヴルの特別展の中で、これほど破天荒で野心的な展覧会は珍しい。
動いていない物を描く「静物画」のジャンルは、かつて、歴史画を最高とする西洋絵画のヒエラルキーの中では最下位に位置し、描くのに特別な知識は不要、かつ動かないものを描くのでラク、と長らく軽視されていた。
けれども、人間は物に囲まれて生きており、物に依存したり、感情移入したりする。本展は、芸術家の物に対する見方、描かれた物が意味するもの、人と物の関係などを15のテーマに分けて、現在、人類が直面している問題にまで言及している。コミッショナーのロランス・ベルトラン=ドルレアックは美術史と政治の関係を専門とする美術史家。170点もの作品を、彼女の視点と問題意識で自由に構成したことで、類を見ない展覧会となった。
展示されているのは、野菜や果物、楽器などをテーブルの上に配置したスタイルの静物だけではない。虚栄を戒めとしてドクロを置いた静物や、吊り下げられた野菜が妙に存在感を持って迫る静物もある。ポスターに使われた、ルイス・エジディオ・メネンデスの「風景の中のスイカとリンゴの静物」では、割れたスイカから果汁がしたたっており、黒い種がスイカに群がるアリのようにも見える。暗い空と共に不安を呼び起こしそうな作品だ。
消費社会における「モノ」を扱った作品もいくつかある。現代美術家エロのファストフードを大量にコラージュした「フードスケープ」や、マルセル・デュシャンのレディメイド「ボトルラック」だ。展覧会の作品は静物「画」だけにとどまらない。
動物に対する考え方が大きく変わり「動物にも人間と同様の権利を」と訴える人が増えた今日、死んだ動物を描いた静物を前にした時の観客の感覚は、17世紀の人々のそれとは大きく違う。コミッショナーはこの点を考慮し、動物を描いた静物画の展示方法に一捻り加えている。
展覧会の後半、人がモノ化し、モノや動物が人化する作品が出てくる。ハイパーリアリズムの彫刻家ロン・ミュエクは、鳥インフルエンザで大量の鶏が殺処分されたことにショックを受け、人間の子供ほどの大きさの鶏が吊り下げられた場面を作品にした。ここまでくると、パンデミックの世界における静物だ。最後は、写真家ナン・ゴールディンが新型コロナウィルスで外出できない時、窓際の花を撮った作品で終わっている。
静物とモノをテーマに、現在の社会問題にまで目を向けた本展を見た後、アーティストたちと一緒にさまざまな冒険をしながら、長いトンネルを抜けて現代に至ったような気分になった。(羽)1月23日まで
Musée du Louvre
Adresse : Rue de Rivoli, 75001 Paris , FranceTEL : +33 1 40 20 53 17
アクセス : Palais Royal - Musée du Louvre
URL : https://www.louvre.fr/en-ce-moment/expositions/les-choses
元旦休。火休、水-月 : 9h-18h (金は21h45)。17€(ネット購入)/ 15€(当日、美術館で購入の場合)/ 無料(18歳未満, EU圏内居住の26歳未満)