国民議会に「多様性の風」。
「投票しないのは、自分と同じような意見の候補者がいないから」。選挙のたびにメディアが紹介する棄権者の声。 「政治家なんてブルジョワ家庭出身者ばかり。国民の生活苦などわからない。誰が当選しようが同じ」という諦めの心情だ。議員名簿を見れば、男349人、女228人と性別では徐々に均衡に近付きつつあるが、職業は管理職や知的職業が7割だ。
そんななか、異色の候補として注目を浴びているのがラシェル・ケケさん。左派連合NUPESがヴァル・ド・マルヌ県から立てた候補で、当選すれば、初の清掃人の議員誕生となる。
ラシェルさんは、故国コートジボワールで1999年にクーデターが起きた翌年に渡仏。(ラシェルさんの祖父は第二次世界大戦でフランスのために戦った。フランスはラシェルさんにとって特別な国なのだ)。理髪店、レジ係などを経て、ホテル客室清掃の職に就く。しかし派遣社員は正社員と条件が違い、低賃金で昼食の休憩がなく、1部屋当たり17分で30室清掃するなどのノルマを課せられた。時間内に終えられなくても超過時間は支払われない。セクハラ被害者も、体を壊す同僚もいた。ラシェルさんは仲間たちとストを決行、長引くに従ってメディアがとりあげた。そして22カ月間という仏ホテル業界最長のストの末、正社員にはなれなかったものの、ホテル大手アコールグループから要求事項を勝ち取った。
NUPESが開催した初の集会では「…警備、介護士、看護師…私たちが仕事を止めたら国は機能しません。私たちは国にとって大切なのです!下請けの労働は厳しく、私たちはホテルで闘い、勝ちました。次は国民議会で具体的に法を制定していきたい。コロナ禍中も命の危険にかかわらず仕事をしていたのは私たちです!」と演説、会場は熱気に包まれた。左派LFI党には、看護助手の議員がいて、コロナ禍中も議会で力強く発言を続けてきたし、今回の選挙ではパン職人の候補者もいる。ラシェルさんは自分を含む労働者を社会から見えない人「invisible」と呼ぶ。しかし、今後は議会で見える存在 「visible」 にして生活や労働条件を改善してゆくべき、と熱く語る。
棄権者をどうやって投票所へ向かわせる?「戸別訪問です。ヤシの木は幹を揺さぶると実が落ちるでしょう?揺さぶるのよ!(笑)」。エネルギッシュなラシェルさんは今や時の人。インタビューが1日15件という日もあるそうだ。(美)
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