Le Théorème de Marguerite
フランスは厳しい学歴社会。国立行政学院(ENA)やパリ政治学院(シアンスポ)、高等師範学校(ENS)などエリート養成のグランゼコールが存在し、他の大学とは雰囲気も所属意識も違うらしい。これまで多くの映画監督がその特殊な環境に興味を持ち、グランゼコールやその準備学級に関する作品を手がけてきた。最近はリヨンの準備学級で奮闘する農家出身女子学生が主人公の『La Voie Royale』が記憶に新しい。
今回紹介する映画『Le Théorème de Marguerite マルグリットの定理』に登場するのはパリ高等師範学校。マルグリット(エラ・ランプフ)は学年唯一の数学専攻の女性。素顔にメガネ顔、飾り気のないパンツスタイルで、隙間時間も考えるのは数学のことばかり。ある時、自身の定理を発表した際にミスを発見、打ちのめされ学校を辞める決意をする。
その後はかなり行き当たりばったりの生活。ダンサーを目指す女性とルームメイトになり、とある奇抜な方法で生活費を稼ぐ。だが、彼女はそう簡単に数学を忘れることなどできないようだ。
誰もが他人を気にして生きているような現代社会で、人目を気にせずにいられるマルグリットの人物像がいい。自由人であるルームメイトに感化され、気がつくと気に入った男性に対して挙動不審スレスレの行動に出ている。その一方、数学への飽くなき情熱は純度が高く、およそ普通の人がたどり着けぬ場所へと行けるだろう。
彼女が住むアパート内の壁という壁は数式で埋められ圧巻。門外漢には謎の記号の羅列にしか見えないが、何か崇高で美しいものだと思わされる。これは情熱的な変わり者讃歌のドラマだ。スウェーデン系フランス人、アンナ・ノヴィオン監督の長編第3作。カンヌ映画祭特別上映作品。(瑞)
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