ある時は消防士、またある時はレーサー、極道、バンドマン……。そんな家族総動員のコスプレ風写真集「浅田家」から生まれた話題の映画が、いよいよフランスで劇場公開へ。前半はそんな異色の家族写真の撮影の数々、後半は写真家の主人公が東日本大震災後に写真洗浄と返却ボランティアに参加する様子を軸に描く。
昨年末に開催されたキノタヨ映画祭では、観客から圧倒的な支持を受け、最高賞・金の太陽賞を獲得した。舞台挨拶にはモデルとなった三重県出身の写真家・浅田政志氏、浅田氏と同郷で映画の生みの親の小川真司プロデューサー、人生の酸いも甘いも包み込む人間ドラマに仕上げた中野量太監督が揃って参加。上映後は熱を帯びた観客との間で、温かく活発な質疑応答が交わされた。今回は渡仏中の中野監督と浅田氏にパリで話を伺った。
—–企画を引き受けた原動力とは。
中野:二点あります。最初に小川プロデューサーから写真集を見せられ「この家族を映画にしたい」と言われました。どう考えたってこのような写真を撮る家族にはドラマがあるに決まってる、これは絶対面白いドラマが隠れていると興味を持ったことです。もう一つはいつかクリエイターとして、震災については表現しなければという思いがあったのです。今回、浅田さんが家族写真の撮影にプラスして、「写真洗浄」を経験されているのを知って、彼を通してならちゃんと(観客が)笑顔になる震災の映画が撮れるんじゃないか、挑戦したいなというのが二つ目の原動力になりました。
—–ご自分の人生が映画化されたお気持ちは。
浅田 映画化の話はとても有難いけれど、最初は半信半疑でした。監督のイメージと俳優さんが演じたものがミックスされ、でも僕の経験もエッセンスとしてありました。すごく不思議で表現しづらいです。人生わからない、こんなことが起きるんだなと。
—–ご家族はご覧になったのですか。
浅田 風吹(ジュン)さんが母、平田(満)さんが父、二宮(和也)さんが僕、妻夫木(聡)さんが兄を演じています。それぞれ私服で横に立てば全然違うし、母と風吹さんは綺麗さが雲泥の差ですが(笑)、カメラを覗いてスクリーンに写っている姿を見たら、そっくり過ぎてみんなでびっくりしました。どうしてそうなるかわからないほどです。やっぱり俳優の力なのかなと。
—–今回監督なりの挑戦や発展させたところは。
中野 最初は震災を描くのに勇気が要りました。でも東北を取材する中で、現地の人たちはもちろん悲しみを背負っているけれど、外部の人が思っているより前を向いていらっしゃると感じました。やっぱりこの映画は撮るべきだと思ったし、自分のやりたい(コメディ風の)表現でもいけると思いました。ちゃんと真実を伝えて、被災地の人に見せても恥ずかしくない映画を絶対撮ろうと思いました。
映画の完成後には、被災地のモチーフとなった岩手県の野田村で野外上映をしました。その時に村長から、「映画がここで上映できてよかったです。ここは公園ですが、実は津波の前は家がたくさん建っていました。ここに生活があった場所で上映をしているんですよ」と言われた時に、ぞくっとしました。村の人たちがたくさん見に来て、「良かった」と言ってくれた時は言葉にならなかったです。小川さんは泣いてました。これが映画を作る意味かと思いました。
—–在仏日本人にはしゃぶしゃぶやたこ焼きなどの食卓シーンは、羨ましくて拷問のようでしたが(笑)、「食」は日本映画で重要ポイントですか。
中野 どうでしょうね。ただ、自分に「家族」の定義はないのですが、「一緒に食卓を囲んでシェアをして食べる」という形が、家族の定義に一番近い何かだろうと思っています。僕自身は家族を描くことにプラスして、人間というものを描くためにも食は大事だと思っているので、(自分の作品には)必ず入れますね。
—–主演の二宮和也さんについて印象を。
中野 主人公は周りに迷惑をかけるけど、この人のためなら何かしてあげたい、でもしてあげたことで、いっぱいいろんなものを与えてくれるような人なので、そういう「人たらし」的な素質をもともと持っている人でないとダメかなと。ニノはそういう雰囲気を持っていたので、僕は最初から彼でいきたいと思っていました。そしたら(希望が)通ったので、それは大きかったですね。
聞き手:林 瑞絵
2023年1月25日よりフランス全国で公開。なお、フランス全国40館の映画館で、写真集「浅田家」のオリジナルと映画用の再現写真を比較展示する写真展を開催。https://www.hanabi.community/la-famille-asada-lexpo-photo/